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2013/05/30

路上の砂利

 コーヒーゼリーの中に煌めくもの。
 一閃する光。
 気が付く間もなくダークブラウンの闇に溶けていく。

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 闇の海に黒い影が過る。
 コーヒー豆? ブルーベリーの実? 葡萄の実?
 干し葡萄のように皺くちゃな粒が数知れず、濃密な闇に蠢いている。

 そうだ、オレは夕べ、何かの果物を切ろうとしていたのだった。

 果物ナイフがなくて、古びた包丁でリンゴを真っ二つに断ち割ろうとした。
 が、リンゴは恐ろしく固かった。

 包丁の刃など撥ね付けてしまって、何度も包丁を振り下ろすオレを嘲笑うかのようだった。
 汗が滲んだのか、しまいには、取っ手がぬるぬるして、まるで力が入らなくなってしまったのだった。
 ついには、柄が抜けて、刃が飛び去ってしまった。
 リンゴの果汁のような汗が体中から溢れ出していた。
 真っ赤な果汁。
 脂塗れのどろっとした果汁。
 赤い? 脂? 

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 違った。リンゴの果汁なんかじゃなかったのだ。
 それは、オレの血だった。
 いつの間にかオレは包丁の刃を握っていたのだ。
 そう、刃は選りによってオレの胸を突き刺してたのだった。
 そうか、あの絵も云えぬ快感はそのせいだったのか!
 不思議なのは、赤血球がやたらと大きいことだった。
 血小板ですら、カカオ豆ほどだ。リンパ球がパチンコ玉と見紛う。

 そうなのか。あれは、コーヒーゼリーなんかじゃなかったのだ。どす黒い血。酸欠の血だったんだ。
 
 分かったよ。もう、分かったんだってば!

 なのに、夢は醒めない。
 それどころか、包丁の刃のはずが、いつの間にか諸刃の剣となっている。
 手を翳して防ごうとしても、刃は我が身に食い込んでくる。
 握って、その蠢きを押しとどめようとしても、刃は獲物を得たぞとばかりに、一層、体躯を捻らせスクリューとなって、我が身を抉ってくるのだった。

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 オレは、濃紺の闇へと沈んでいった。刃から逃れようと。
 が、諸刃の刃もオレを追ってくる。
 闇の中の蒼白の煌めきがオレに付き纏う。
 なぜかもう、赤紫の闇の時のようには、オレの身を抉ろうとはしない。
 その代り、オレの身を甚振るかのように、あちこちを撫で摩るかのように、刃がオレに纏わり付く。
 違った! それらはオレの体毛なのだ。
 体中を無数の微細なる諸刃の剣が取り巻いている。
 
 何処かで観たことのあるような、懐かしい光景。

 必死になって、何処で観た眺めなのか、思い出そうとした。
 間違いなく、一度ならず、観たことのある、荘厳なる情景。

 ああ、そうだ、卵子に飛び入らんとする精子たちだ。
 選別し選り好みする卵子のエゴ。
  
 何故か急に吐き気を催してきた。
 毛嫌いする、それ。
 オレは透明な闇の海を飛び出さないといけない。
 オレの居場所は、海ではなく、空。
 空の空。
 空無の崖。

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 乾ききった路上の砂利。
 それはオレだ! という悲鳴にも似た叫び。
 その瞬間、オレはやっと夢から解放された。


(水曜日、溝の落ち葉を拾おうとして、グレーチングを外そうとして手を滑らし、私の手の指がグレーチングと溝のコンクリートの角との間に挟まれ、血が滲んでしまった。久しぶりに自分の血を見て感動して…。いや、それとも、最近、薔薇付いているから、その安直すぎる連想の結果なのか…。)

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