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2013/04/16

お化けが出た!

 昨夜、お化けが出た!
 富山市のど真ん中で。
 といっても、タクシー業務中でのこと。

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→ 無事、役目を果たし、帰路に着いた。さすがに徹夜での長距離運転は心身に堪え、三度も仮眠や休憩を取った。往路は4時間だったが、帰路は六時間ほど!

 タクシー業界用語で、遠距離利用客のことをお化けと読んだりする。
 特に、「思いもよらぬ時間や場所で極端な長距離客を乗せた場合に駅付けでお化けが出たなどと言う使い方をする」のだ。

 大急ぎで注釈をつけおくが、お客さんをお化け呼ばわりしているわけではない。
 ありえないようなことが(業務上で)起きるから、敢えてお化けなどと符丁風な表現をする。
 それだけ、タクシーが依然として不況だということもあるし、お客さんというのは、タクシードライバーなどの貧しい想像力や戦略、思惑を超えたところで遭遇するという意味合いもある。

 昔は割合にお化けは出没したらしいが、近年は滅多にない。
 京都は論外としても、金沢や新潟、高山も極めて稀。
 今年初めに同僚が福井へ行ったという話は仄聞したが、それが話題になるほどに珍しいことなのである。

 昨夜、夜半へあと三十分という頃合い、富山市内を流していた。
 日中はタクシーを流しても、まずお客さんと遭遇することはなく、駅や病院、ホテルなどに車を付けて待機することが多い。あるいは無線で会社から指示を受けて営業する。
 小生は東京在住時代、タクシーでは流し営業オンリーだった。
 なので、流し営業は無謀な富山だけれど、せめて夜だけでも流し営業を敢行する。

 あと一回くらいお客さんを何とか見つけたら、今日の営業はやめにしようと思っていた。
 しかし、不況のこのご時世、あと一回の営業と云うのが、なかなか難しい。
 無線が入るか、流しでお客さんに遭遇するか。

 と、ほとんど全く思いがけない場所で、路肩に男性が立っている。しかも、手を挙げている。
 男性は生け垣の向こうから、身を乗り出すようにして小生のほうに向かって手を振っているのだ。
 明らかにタクシーを呼ぶ仕草である。誰かに手を振っているようではない。
 期待と、もしかしたら勘違いかもしれないという思いが交錯する中、男性のほうへ寄っていく。
 男性は開けたドアから乗り込み、「ちょっと遠いけど、頼むよ」という。

 遠い…。魚津か氷見か小矢部か、いずれにしろ今日の最後の仕事に誂え向きである。
 ラッキー! と心の中で開催の声を挙げながら、行く先を訊ねる。

 その返事に驚いた。「京都まで行ってくれませんか」!
 小生は一瞬、驚き、ああ、酔っ払いの例の冗談かなと思った。

 実際、お客さんはお酒を相当飲んでおられる様子。
 酔客は、冗談で、「金沢へ」などと云うことが間々、ある。
 しかしそれを真に受けるほど、小生は初心じゃない。
 東京で12年余り、富山でも既に2年以上のタクシー営業の経験があるのだ。
 その意味は、列車で金沢へ行きたいから、富山駅へ向かってほしい、という意味なのである。

 なので、至って平静に…じゃなく、冗談に軽く乗るようにして、じゃ、金沢へ…ではなく、富山駅へ向かうわけである。
 当夜のお客さんも、その口かなと思ったら、どうやら本気で京都へ乗せていけということのようなのだ。
 もう、今夜は京都方面への列車ダイヤルはない。急用なので、どうしても至急、京都へ行きたい…。
 
 超ロングのお客さん。
 嬉しい話だが、タクシードライバーは、こういう場合が思案の為所である。
 現地へ行ったはいいが、料金を踏み倒された、という話はしばしば聞いている。
 おカネの持ち合わせがなく、警察へ、というケースは稀ではないのだ。
 どうしたものか。

 こういう場合、頼りになるのは会社である。
 無線で、京都まで乗せていってほしいというお客さんが居るんですけど、どうしましょう、などと配車室の要員に問いかける。
 その心は、お客さんとドライバーだけの話ではなく、配車室の第三者も関与しているということをさりげなく(しかし、あからさまに)お客さんに伝える意味合いがある。
 トラブルを避ける工夫の一つである。
 配車室の係員は、「乗せるかどうかは、あんた次第や」という当たり前の返事をする。燃料はどれくらい入っているかとも、訊ねてきた。 
 70リッターは入っている。

 LPGだが、リッター当たり、日中だと5キロくらいだが、高速道路だと、6キロ乃至7キロは走る。
 3百キロ余りの京都までは計算上は持つ。

 高速を使っても、多少の休憩をするとして、四時間のドライブ。
 東京在住時代、帰省のため、東京と富山をバイクで幾度も往復したものだ。その間、500キロほど。
 それに比べれば、330キロなどは、ひとっ走りである。

 辛いのは、気持ちの上で、あと一回、適当な仕事をこなしたら、帰社し家路につく、というモードになっていたものをロングのモードへ切り替えること。
 しかし、不可能な仕事ではないのだし、ここで受けなきゃ男がすたる、である。

 男性客は、頻りに、夜中にこんな遠い面倒な仕事で御免なさいと詫びる。
 でも、どうしても帰りたいのだという。
 車中でも親戚や会社など関係先に電話しまくっていた。
 小生は、こんな時にお役にたてて嬉しいです、などと答えるしかない。
 
 プライバシーに関わることなので詳しいことは略すが、男性は仕事で富山に来ていたが、飲食していたところ、お袋さんが危篤という連絡を受けた。
 列車はないし、何が何でも急いで帰りたい、その一心だったのである。

 一旦、ホテルへ向かい、チェックアウトし荷物をまとめ、それから富山インターから高速に乗り京都へ。
 高速に乗ったのはちょうと夜半だった。
 結果から書くと、2時半過ぎ、先方(目的地の家)から電話が入り、男性のお袋さんは「静かに眠るように亡くなった」。
 大往生だったとか。

 懸命に運転していた小生もだが、男性は気落ちしたようなってしまった。
 それでも、一路、京都へ。
 未明の四時過ぎ、京都の某インターを降り、目的地へ。
 清算が済んだのは四時15分頃。現金での支払いだった。

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← 帰路は、会社の事務上の都合で、富山インターではなく、一つ手前の小杉インターで降りた。途中、ナシ作りで有名な吉作を通った。あちこちでナシ畑を目にする。ナシの花が満開。

 それからも、小生には仕事が残っている。
 それは、京都から富山へ帰る仕事もだが、その前に燃料を入れないといけない。

 既にエンプティのレベルに近づいていた。
 地理不案内の地で、LPG燃料を入れるステーションを探さないといけない(高速道路上にはLPGのステーションはない)。

 タクシーを見つけ、タクシー会社へ行き、ステーションを案内してもらった。
 富山ではLPGステーションは夜の八時過ぎで閉店だが、さすがに京都は都会で、24時間営業なのだった。
 満タンにして、いざ、富山へ!


タクシー関連サスペンス風作品:
闇に浮ぶ赤い花
白いドレスの女
行く先は何処

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