利賀村から遥か馬籠宿を想う
過日、利賀村へ行った。但し、お客様の送迎という仕事である。
それでも、小生には初めての利賀村ツアー。
その日は、春の陽気で、各地で春一番が吹き荒れた。運転したのは大型のワンボックスカーなので、風の影響をもろに受ける。車体が揺れるし、車線の中で右往左往 ! ?
→ ツルゲーネフ【著】『猟人日記抄』(工藤 精一郎【訳】 未知谷) 「本作『猟人日記』にインスピレーションを得てトルストイは『森林伐採』『三つの死』など、チェーホフは『葦笛』『猟兵』、国木田独歩は『武蔵野』、島崎藤村は『千曲川のスケッチ』を書き上げた。ありのままの自然と人間の姿を素直に知ろうとする自然主義文学がここから始まる」というが、まあ、そんな固いこと抜きで、久しぶりにツルゲーネフの世界を楽しむ。実際、いままでツルゲーネフの小説を読んで独歩や藤村を想ったことはまるでなかったし。それでも、藤村らに影響を与えたとあっては、再読しないではいられない!
峠道を十キロ以上も走行する。道の片方は急斜面で、片方は崖下。
山の奥のほうなので、里のほうより気温が低い。雪が心配されたが、このところのやや暖かめな雨や気温のせいで、路面には雪はない。凍結の心配もなかった。
但し、路肩には雪がいっぱい残っている。
雨と風のせいで、小さな雪崩が方々にあって、それを避けながらの走行。
利賀村には、船でしか行けないことで有名な大牧温泉など、温泉も数々あるし、スキー場や世界演劇祭 利賀フェスティバルの会場もある。利賀そばも有名。
「1976年に演出家鈴木忠志が率いる早稲田小劇場が拠点を利賀村に移したことに、村は様々な側面から支援を行った。1982年から毎年、世界演劇祭利賀フェスティバルを行うことになり、内外の演劇界から注目を浴びるほどのイベントとなった。これらの演劇を中心とした事業が、高い成果を上げ、過疎の村が世界的知名度を得たことから、過疎地域の活性化モデルとして有名になった」のである。
典型的な過疎の村が、今では富山県ではもちろんだが、その筋では全国的に(世界的に)有名な村になった。
山間の道なのに、行き交う車も結構あった。
今回調べて初めて知ったのだが、利賀村という名称は、「加賀藩の初代藩主である前田利家に由来する」!
← 大崎 茂芳【著】『クモの糸のミステリー―ハイテク機能に学ぶ』(中公新書) 「クモは人間よりはるかに長い四億年の進化の過程で、糸を生み出した。住居をつくるのも糸、餌を捕えるのも糸。クモの糸は伸縮性、耐久性などで現代のハイテクをしのぐ高い機能性をもっている。 (中略) 安全性を考慮し、リサイクルに配慮した糸をつくるクモに、われわれが学ぶことは多い」。文学や古代史など、クモの科学を幅広い観点から探求。小生は、「蜘蛛の巣をめぐるエトセトラ」「藤原作弥…香月泰男…蜘蛛の糸」など、クモを巡るエッセイを幾つか書いてきた。クモの糸(巣)というと、芥川やドストエフスキーなど、小説のモチーフに深く関わったり、時には発想の発端になったりする。いろんな意味で刺激的な生き物なのだ。「柔らかくて強いクモの糸の神秘 大崎 茂芳 氏」で同氏へのインタビュー記事が読める。
その他、利賀村については、紹介すべきことが多々ある。
この地の民宿が目的地。
といっても、小生はドライバーなので、お客さんたちが目的を果たされている間、雨が降っていたので、辺りを散策することもできず、車中待機。
となると、待っている時間はタブレットを弄ったり、読書である。
車中で、途中まで読んでいた大崎茂芳著の『クモの糸のミステリー―ハイテク機能に学ぶ』(中公新書)を読了してしまった。
→ 利賀村の某所。雨の中、傘もなくて歩き回れなかった。それでも、周辺の風景を眺めていると、知らず、藤村の『夜明け前』の舞台である木曽の山の中の光景を偲びながら…となっているのだった。
読了して、クモが好きになったわけではないが、クモの習性やクモの糸への興味が掻き立てられた。
クモの巣というと、特に屋内に張る巣となると、埃っぽく薄暗い、見捨てられた廃屋といったイメージがつい湧いてしまう。
しかし、クモは清潔好きで、巣が埃などで汚れたり、あるいは傷付いたりすると、すぐに新しい糸で補修したりして、常に清潔を保っておくのだとか。
そうしないと、虫を捕えるにも、粘着力が弱まるわけで、なるほど理屈である。
しかも、クモは、糸を張り替える際、古くなったり傷ついたりした糸(網)は、全て回収し、リサイクルして使う!
そもそもクモの糸(網)にも、横糸や経糸など、いろんな種類の糸(捕獲帯、足場糸、牽引糸、枠糸など)を駆使しているという。
本書は、著者の失敗談や苦労話など、エピソード満載で、読んで面白かった。
詳しくは、「柔らかくて強いクモの糸の神秘 大崎 茂芳 氏」など参照のこと。
← 島崎藤村著『夜明け前 〈第2部 下〉 (改版)』(岩波文庫) 昨日、島崎藤村の『夜明け前』読了。通算、3回目。今度は四か月以上を費やして、ゆっくりじっくり。日本文学の金字塔だ。最後は、深い感動に涙した。本書を読まずして、日本文学を語るなかれ、である。
上掲書を読了後、念のため、持参してきた島崎藤村著の『夜明け前 〈第2部 下〉 (改版)』(岩波文庫)をも読み始めた。
その頃には薄暗くなり、あまり読めない。
翌日、残りの数十頁を一気に読了。
やはり、『夜明け前』は素晴らしい。
私小説家で自然主義作家の藤村が、外国文学の影響を脱し、一挙にマルケスの『百年の孤独』やメルヴィルの『白鯨』など世界文学の中でも傑出した文学作品を作り上げるに至った。
今日のみならず、これからも読み継がれ、その都度再認識されていくに違いない。
本書についての感想は、以前にも書いたが、いつか改めて書いてみたい。
→ 木曽の馬籠は、冬は雪深い。苫屋というわけではないが、雪に埋もれたようにポツンと建っている家が床しくてならない。利賀村某所にて。
さて、四か月以上を費やして読んだ『夜明け前』だが、その深く熱い余韻も冷めやらぬのに、ツルゲーネフ著の『猟人日記抄』(工藤 精一郎【訳】 未知谷)を読み始めた。
学生時代、ツルゲーネフの代表的な作品は『猟人日記』も含め、読んだ。
今回、『猟人日記抄』を手にしたのは、彼が国木田独歩や藤村に自然主義文学を志せたからでもある。
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