香西と久世と無言坂
体調が良くないもので、砂嵐気味のよく映らないカーナビのテレビをダラダラ見ていた。「そして歌は誕生した - 名曲のかげに秘められた物語 -」というNHKの番組である。
← 香西かおり『無言坂』 (CDジャケット画像は、「香西かおり オフィシャルサイト」より)
最初に採り上げられていた青葉城恋歌を巡る佐藤宗幸もそれなりには聞いていた。なんといっても、青葉城恋歌は我が青春の地・仙台の歌である。作られ流行り始めたのは実際の大ヒットの数年前かららしいが、小生がヒットするその歌をよく耳にするようになったのは、昭和53年。つまり、小生が仙台から東京へ上京した年なのである。なんだか、自分を励ましてくれているような、あるいは仙台を忘れるなよと、歌われているような気がしたものだった。
次に採り上げられたのは、香西かおりのヒット曲で93年、日本レコード大賞も受賞した「無言坂」。こちらは小生が高橋真梨子やチェウニらと並んで大好きな香西の、そして小生の好きな曲・無言坂ということで、じっくり曲を聞こうと思った。
曲さえ聞ければいいと、なんとなくテレビ画面も見詰めないで、どちらかというと、パソコンの画面に向かっていたら、そのうちに、この曲の歌詞が久世光彦(てるひこ)によるものであり、彼の富山で暮らした頃の思い出が歌い込まれているという話が聞こえてくるではないか(作曲は玉置浩二である)。
それからやっと身を入れて話に聞き入ったが、もうすでに秘話の部分は終わっていた。
→ 画像は、「香西かおり オフィシャルサイト」より。
参考のため、ネットで「無言坂」に絡むエピソードを探してみた。既に直接は検索の網に掛からないサイトもある。雑多な情報を集めると、92年暮れの時点で、AB両面のA面の曲は出来ていた。『あゝ人恋し』という曲。レッスンさえ済んでいたとか。もう一つが、「無言坂」。
しかし、玉置浩二による曲は出来ていたが歌詞が出来てこない。その作詞を担当していたのは、「市川睦月」。誰あろう、久世光彦氏の作詞上のペンネームである。彼には数々の作詞した曲があるが、時代の風潮に合わず作詞活動はやめていた。
しかし、香西が所属するプロダクションからプロデュースを頼まれて作詞活動を再開。彼女が気に入ったのである。久世氏は、香西のヒット曲『花挽歌』も作っている。「無言坂」という曲は、ニューミュージック風で、誰に作詞を任せるか、ポリドール側も考えた挙げ句、久世氏を起用することになったとか。
やっとできた歌詞がファックスでスタジオに届いたとか。その時、初めてタイトルが「無言坂」と知られる。ぶっつけ本番の吹き込み。やがて「無言坂」がA面と決まる。
『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』の制作に携わったこと、さらにその後、数々の文学賞を受賞していることでも有名な久世氏は、小生にとっては郷里に関係する数少ない有名人の一人である。彼 は東京生まれのはずだが、両親は富山生れと聞いている。父の仕事の都合で彼は、若い一時期を富山で暮らすことになった。彼が富山をどんなふうに過ごしたのか、小生は知らない。住んでいたのは相生町だったとか。小生はあまり馴染みのない町。
← 久世光彦・著『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』(文春文庫)
というより、18で富山を離れた小生は、あまり富山の町を知らない。かなり狭い範囲しか高校時代までは動いていなかったと、今にしてつくづく思う。 曲のタイトルの無言坂について一言したいところだが、ここは全く聞き逃した。タイトルを決めた久世氏に伺うしかない。
例えばグレープのヒット曲で有名な無縁坂は東京には実際にあるし、無言坂についても、京都か東京か何処かの地名に由来するのかなと、勝手に思っていた。それとも無言になるしかない坂という歌詞の内容を象徴する名前なのか、小生は分からない。
小生の机の上には数年前に買った「ベスト全曲集 香西かおり」が鎮座している。プレーヤーが壊れたままなので、掛けて聞くことは出来ないが、あるだけで安心、というわけである。
「あの町もこの町も雨模様 どこへ行くはぐれ犬ひとり 慰めも言い訳もいらないわ 答えならすぐにでも出せる…」とか、いい歌詞なのだが、引用は著作権も問題もあるし、難しい。「帰りたい 帰れない ここは無言坂 帰りたい 帰れない ひとり日暮坂」とか、引用したいが、知っている人は知っているのだから、ま、ここは我慢である。
ただ、とにかく小生の好きな歌手・香西かおりの「無言坂」の歌詞が久世光彦の手になるものであり、しかも、氏が富山に居住していた若い頃の風景にちなむのだということを知っただけでも、なんだか嬉しい。これからはこの曲を新たな気分で聴くことになるに違いない。
(03/08/14)
→ 「香西かおり/ベストヒット全曲集」(ポリドール)
久世氏については例えば下記を参照:
「久世光彦-直木賞候補作家-111KT
香西かおりの公式サイト:
「香西かおり オフィシャルサイト」
本稿関連拙稿:
「無言坂…早く昔になればいい」
「久世光彦著『怖い絵』の周辺」
「久世光彦・著『ベスト・オブ・マイ・ラスト・ソング』の周辺」
| 固定リンク
「旧稿を温めます」カテゴリの記事
- 夏の終わりの雨(2024.09.04)
- 休日なのに本が遠い(2024.08.27)
- 菌類が世界を救う ?!(2024.08.26)
- モモやリンゴやシジミにアサリ(2024.08.20)
- 水の流れが変わった!(2024.08.12)
コメント
無言坂が富山のどこかの坂を現わしているのは知っていました。
富山のどこの坂なんでしょうね。お存知でしたら教えて下さい。
相生町には、そんな坂はないような気がしますね。
投稿: SILVIAおじさん | 2013/03/14 19:29
SILVIAおじさんさん
文末にもリンクを貼りましたが、以下のペイジに大凡のことを書きました:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2008/04/post_7169.html
民芸村の近くの坂かな。
投稿: やいっち | 2013/03/14 19:44
こんばんは。
御無沙汰をしていました。
香西かおりは私も大好きな歌手の一人です。彼女が艶歌ではなく、ポップスを歌った番組を見て歌の上手さにビックリしました。
投稿: シゲ | 2013/03/14 21:39
シゲさん
久しぶりです。
こちらこそ、無沙汰してます。
すっかり、腰が重くなって…。
東京も、そしてサンバパレードを見ることが叶わなくなって淋しいです。
香西かおり、いいですね。
数年前、富山でショーがあったとき、喜んで行きました。
この腰の重い小生が!
歌の上手さはもちろんですが、声、そして喉にかかる独特な歌唱法が好きです。
投稿: やいっち | 2013/03/15 03:54