私のサギ物語
いつだったか、何処かの川沿いの小道で車の中で休憩していた。
天気も良かったので、ちょっと窓を開けてみた。
すると…何やら蠢く影が。
見るとそれは、サギだった。
白っぽいし、図体も大きいが、鶴や白鳥でないのは確か。
やや青みがかった白という体毛からして、アオサギ(蒼鷺)なのかもしれない。
流麗な御姿とは言いづらいが、何処か哲人ならぬ哲鳥の風格がある。
ただ、雄か雌かは分からない。
奴はほとんど動かない。
小鳥のように、あるいはカラスのように、気忙しく動いたりしない。
時折、嘴で体の何処かをつんつんする。身繕いなのか、体が痒いのか。
それも、ほんのひと時で、あとはずっと堤防の端っこに佇んでいる。
奴は、私が眺めていることに気付いている…はずだ。
オレがシャッターチャンスを逃すまいと、窓から手を差し伸ばし、デジカメで撮影し始めたことに明らかに気付いている。
それが証拠に、最初は川面を見下ろすように、ほとんど斜め後ろの姿しか見えなかったのが、カメラ(私)に気付いた途端、真横の姿を見せるようになったのだ。
最初は私を警戒しているのかと思った。
思わず、デジカメを引っ込めてしまった。
が、奴は、カメラを意識し始めた途端、微動だにしなくなったのだ。
横顔に自信があるのだろうか。
それとも、容易に察しがつくように、真横ということは、目をまっすぐ私に向け、警戒…というより私を観察しているのだろうか。
← 私が車を止める場所に奴が居た。私を待ち伏せしていた?
数日してからのことだった。
私は休憩のため、同じ場所に向かった。
休憩のための場所は何か所かある。
そこは閑静というわけではないが、時折、川面に水どりが飛来するし、裏通りなので、警察が取り締まりには来ない。
すると、驚いたことに、私が車を止めようと思っていた場所に奴がいた。
お前、ここで休憩するんだろう、オレ、待っていたんだぜ、と云わんばかりである。
私の車が近づいても、逃げようとはしない。
それどころか、私のほうをじっと眺めている。私は奴の手前2メートルのところで車を止めた。
二進も三進もいかなくなった。
どうすればいいんだろう。
とりあえず、奴の雄姿を撮ることにした。
私たちは睨み合っていたわけではないが、だからといって何をどうするわけでもなかった。
奴の心中は分からないが、私は車の中で立ち竦んでいた。
凍り付いた空気が破られるのに、そんなに時間は掛からなかった。
間もなく、別の車がやってきたのだ。
そいつは、奴が立っているのもお構いなしに、車を滑らせ、奴をどかせた。
奴は何処かへ飛んで行った…と思った。
が、そうじゃなかった。
しばらくすると、奴は今度は、私の車のすぐ脇に止まったのである。
やはり、私に横姿をみせて。
また、しばらく、私と奴の睨み合いが続くかと思われた。
違った。
奴は向きを変えて、今度は私からすると後ろ向きになった。
八の視線の先を追うと、そこには若い女性のヌード像がある。
メリハリのあるボディで、ウエストがくびれている一方、太ももが逞しい、存在感たっぷりの像。
豊かな胸…と云いたいところだが、生憎彼女は腕を組んでいて、胸が見えない。
何か沈思黙考しているようだ。
下手に声を掛けるのも憚られる雰囲気である。
もしかして、奴は、私なんかじゃなく、この女性に関心があるのか。
私の様子を伺っている…なんて思っていたのは、私の勝手な思い込みに過ぎなかったのか。
← よく見ると、カラスの奴が高みの見物してる。
奴の視線は、ついにはまっすぐヌード像に向かった。
もはや、間違えようがなかった。
奴の狙いはヌード像にあったのだ。
私なんか、眼中になかったんだ。
→ 奴の目からは考えが読み取れない。
それなのに奴は、時々、視線を私に向ける。
なぜなんだ? 私なんかに用はないんだろ? どうして私を見遣る?
そう、奴は私の心中を見透かしていたのだ。
奴がヌード像に近づいたんじゃない。
最初にヌード像の脇に車を止めていたのは、私だってこと。
私がいつもヌード像の脇に車を止めて休憩する習慣だってこと。
つまり、私こそがヌードを欲しているってことを。
サギ関連拙稿:
「とりどりに取り揃って迷います」
「常緑の葉、冬に咲く花」
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コメント
ときどき、不可解な行動をする動物を見ます。
故人が動物の姿を借りて会いに来たのかも、と感じることもしばしば。
身近な人が亡くなったときは、真っ先にそう思いますね。
サギは、練馬区にもいます。
電線にとまっていたりすると、足が細くてすごく変~(笑)
人には近寄らないですよ。
撮影はおろか、近くで見たことすらありません。
投稿: 砂希 | 2013/02/09 20:33
砂希さん
野鳥は人間に苛められたせいか、用心深い。
特に雀などの小鳥は。
サギくらいになると、カラスもだけど、結構、横柄になる。
図々しい。
サギ君(雄か雌か分からないけど)の行動、何か妙。
故人が動物の姿を借りて…という話は信ぴょう性があったりしますね。
身辺にも(特に親戚などに)危ない人がいるし。
枕もとに現れるよりはましだけど。
このサギ、小生の思い込みに過ぎないけど、我が家の近くの田んぼに出現していたサギじゃないかなって、思ったりして。
投稿: やいっち | 2013/02/09 22:04