やくざとピンク映画の頃
寒波が来襲している。これが最後の悪足掻きと思いたい。
ただ、積雪のほうは(富山については)それほどではない。
一昨日、30分を2度、行っただけ。拍子抜けかもしれない。
← 樋口尚文著『ロマンポルノと実録やくざ映画 禁じられた70年代日本映画』(平凡社新書)
2月というのは、例年、タクシー業は暇らしい。
会社関係は区切りの時期に近づいていて、今月末からは、送別会などが行われることもあるようだが、飲み会の類は減るから、やはり、忙しくなるかもなんて期待は薄い。
俄然(?)、車中での待機中の読書ばかりが進む。
今、車中では、樋口尚文著『ロマンポルノと実録やくざ映画 禁じられた70年代日本映画』(平凡社新書)を読んでいる。
なかなか面白い。
なんたって、「日本映画が興行として崩壊の極地に陥落した70年代、全国津々浦々の映画館に怒濤のごとくなだれ込んだのは、どぎつい性とハードな暴力描写を売る一群だった。おびただしく量産された作品の中から厳選に厳選した110本。映画表現としての画期をつぶさに解像、当時の映画館そのままに「雑然」の魅力を再現した」というのだ。
小生は体質もあって、映画館とか音楽会、あるいは講演会とか、閉じた空間で静かに鑑賞する催しは敬遠する(当然、授業も!)。
別に閉所恐怖症ってわけじゃない(この理由については、本ブログで詳しく書いたので、ここでは略す))。
そんな小生だが、それでも映画館に通い詰めた時期が二度(あるいは三度)ばかりある。
一度目は、小学生(の3年か4年生)の頃である。
近所に当時すでに相当古びていた映画館があり、3本立てで数十円で、辛うじて小学生の小遣いでもたまになら通えた。
小生は何事についても、友人を誘ったりはしない人間だが、その唯一の時期は、この時期で、同級生を誘って映画館へ。
映画は、散々、使いまわされた、雨だらけのフィルムだったが、とにかく映画を観たい一心だったから、ジャンルも何もどうでもよかった。
大抵、日本の映画で時代劇が多かったような記憶がある。
小生が小学生を卒業する間際の頃、ある日、あの映画館が火事で全焼した、というニュースを仄聞した。
と共に、小生のささやかな映画館通いもあっさり終わりを告げた。
二度目は、学生時代(の終り)ころだった。
小生は大学は仙台だったが、留年を二度、経験している。教養課程で一度、学部に上がってからも一度。
都合、6年、学生時代を送ったことになる。
4年目までは友達も居たので、友人連のアパートを泊まり歩いたり、一緒に喫茶や何処かへ溜まり込んだ。
話題は思想(哲学)や文学、美術、音楽など、高尚なもの。
小生にしては、やや背伸びしがちな話題である。
が、学生時代5年目からは、大概の友人はちゃんと4年で卒業したり、そうでなければ、4年を待たずに退学したり(あるいは、心の病で付き合いが絶えがちになったり)で、小生は仙台のアパートで独りぼっちになった。
恋人など、いない。
5年目と6年目は、それなりに真面目に勉強もしたし、講義にも出ていた(卒業時の成績は、哲学だけ可で他はすべて優だった)。
淋しさに耐えかねると、本を読む、ラジオの音楽に聞き入る、ひたすら散歩する(杜の都・仙台の街を二時間ほど、当てもなく歩き回るだけ)。
エロ本を友にするあったが、物足りず、ピンク専門の映画館へ足繁く通っていくようになった。
場所は苦竹という地で、今も映画館街(?)のようである。
当時の小生には、苦竹は場末のように感じられた(実際には、開けていたのかもしれないが、あまり足を踏み入れることのないエリアだったので、気分的なものもあって、場末感覚を嗅ぎ取ろうとしていたのかもしれない)。
目当ては、ピンク映画オンリー。
すでに日活ロマンポルノ路線も始まっていたが、そのしがない劇場で上映されていたのはピンク映画の類いで、幾度となく観に行った(日活ロマンポルノ路線が始まったのは、1971年頃で、学生運動の終焉の頃。あさま山荘事件が翌年にあったが、過激な運動熱を醒ますべく、意図的な国策でもあったのだろうか)。
映画館というより、小劇場と呼んだほうがいいような小さな場。タバコやら何やら据えた匂いが充満していたのが印象的。
そこにはストリップ劇場もあったはずだが、情けなくも観劇しなかったのが心残りである。
→ 『70年代ロマンポルノの記憶 河合孝雄ヌード写真集』(鹿砦社) (画像は、「TSUTAYAオンラインショッピング」より)
三度目になりかけの時期は2度ある。
最初は、上京して間もない70年代終わりの頃で、一人ではピンク映画以外は観に行かない小生だが、堤外的に、菅原文太演ずるシリーズものの、「トラック野郎」だけは、欠かさず見た。
これは小生が仙台在住当時に既に始まっていたシリーズで、本来は、この映画を観に、苦竹に行ったのだが、つい本音が出て、ピンク映画館にふらふらっと入ってしまったのだ。
映画が好きってこともあったろうが、主演の菅原文太が宮城県仙台市出身だということも大きかったような気がする。
三度目になるはずだったのは、小生が東京在住最後の時期を過ごした大田区在住当時のこと。
大田区に住み始めたのは、1990年頃のことだが、会社で孤立(窓際族)していた小生は、仕事でもプライベートでもやたらと忙しかったのに、合間を縫うようにして、大森駅界隈にあったピンク映画専門館に通った。
名目だけの(部下のいない)課長となった小生は、定時で終わるはずのない仕事を抱え、毎日一人残って夜遅くまで残業していた。
たまに夜の十時に帰れると、今日は早いなーと感激したものだ。
しかも、当時、プライベートでは、友人が主催する勉強会のメンバーで、勉強会の講演や討議を録音したテープを起こし、編集し、タイプアウトし、メンバー分(二十部ほど)のコピーをする、なんてこともやっていた。
月に一度の勉強会だが、真夜中や日曜日を潰して作業していた。
さらに、真夜中には、89年の1月から始めた創作の営みが待っていた。
毎日、最低、一時間、何かしら創作を試みた。
多くは、抽象表現主義の絵画を横目に閃くイメージを、文章にならぬ、というより、とにかく活字に移すことだけを試みていた(その後、94年などに本にした)。
毎日、睡眠時間が二時間か三時間という日々が続き、とうとう体を壊した。
ピンク映画を観に行くようになったのは、会社での孤立や過度の睡眠不足などから来るストレスを癒すため…あるいは誤魔化すためだった。
だが、大森駅裏にあったピンク映画館は、早々と閉館となり、通うほどもなく、映画熱も断ち切られてしまった。
ということで、小学生時代を別にすれば、小生が映画を映画館で観るのは、よほどのことがない限り(あるいは友人などに誘われない限り)、ピンク映画のみなのである。
通常の静かにみる映画は、体質もあり、肌に合わないのである。
印象に残っている(勝手にお世話になった)女優というと、白川和子や宮下順子、片桐夕子、田中真理、小川美那子、高橋洋子、中島ゆたか、谷ナオミ、関根恵子、ジャネット八田、小川知子、秋吉久美子、五十嵐淳子、梶芽衣子、五十嵐めぐみ、桃井かおり……
← 『ザッツ・ロマンポルノ 女神たちの微笑み』(VHS版 NIK608_R-50 出演女優:白川和子・宮下順子・関根恵子・風祭ゆき・美保純・谷ナオミ) 「今、ここに蘇る女神たち!17年間の幕を閉じたロマンポルノのアンソロジー映画、タイジェスト・グラフィティ決定版。白川和子、宮下順子、関根恵子、風祭ゆき、美保純、谷ナオミほかオールスターが勢揃い。70~80年代を駆け抜けた女優を中心に名場面を紹介している」だって。 (画像は、「にっかつロマンポルノビデオカタログ」より)
肝心の本についての感想は書く余裕がなくなった。
せめて、目次だけでも、示しておきたい(実際に観たものは太字にする。実に少ない! 勿体ない!):
目次
はじめに──七〇年代プログラム・ピクチャーの頽廃と挑発第1章 セックスとバイオレンスの饗宴
1 実録やくざ路線のバイオレンス
「顔役」「人斬り与太 狂犬三兄弟」「仁義なき戦い 代理戦争」
「実録・私設銀座警察」「仁義の墓場」「北陸代理戦争」2 ロマンポルノ路線の挑発と抒情
「濡れた欲情 特出し21人」「(秘)色情めす市場」「犯す!」
「人妻集団暴行致死事件」「さすらいの恋人 眩暈」
「昼下りの女 挑発!!」3 性が起爆させるバイオレンス
「女地獄 森は濡れた」「やくざ観音 情女(いろ)仁義」
「やさぐれ姐御伝 総括リンチ」「レイプ25時 暴姦」
「天使の欲望」第2章 狂い咲くジャンルの妙味
1 青春のニヒルな彷徨
「八月の濡れた砂」「ポルノの女王 にっぽんSEX旅行」
「急げ!若者」「四畳半青春硝子張り」
「新宿乱れ街 いくまで待って」「トルコ110番 悶絶くらげ」2 アクションの新生面とカンフーブーム
「白昼の襲撃」「豹は走った」「野獣狩り」
「直撃地獄拳 大逆転」「資金源強奪」3 エロスと残酷の時代劇
「蜘蛛の湯女(ゆな)」「戦国ロック 疾風の女たち」
「将軍と二十一人の愛妾」「徳川セックス禁止令 色情大名」
「御用牙 かみそり半蔵地獄責め」
「子連れ狼 地獄へ行くぞ!大五郎」「ポルノ時代劇 忘八武士道」
「下苅り半次郎 (秘)観音を探せ」4 スケバンと戦闘少女の割拠
「0課の女 赤い手錠(ワッパ)」「番格ロック」
「横須賀男狩り 少女・悦楽」5 カーアクションの模索
「3000キロの罠」「ヘアピン・サーカス」
「暴走パニック 大激突」「狂った野獣」「ダブル・クラッチ」6 メロドラマとラブロマンスの光芒
「ボクは五才」「ママいつまでも生きてね」
「挽歌」「スリランカの愛と別れ」7 本格探偵ミステリと社会派サスペンスの競作
「影の車」「内海の輪」「動脈列島」
「実録三億円事件 時効成立」「錆びた炎」
「不連続殺人事件」「江戸川乱歩の陰獣」8 怪談からオカルトへ
「怪談昇り竜」「血を吸う薔薇」「怪猫トルコ風呂」9 洋画ふうソフィスティケーション
「卒業旅行 Little Adventure」
「雨のアムステルダム」「パリの哀愁」10 おまけ短篇と編成の妙
「太陽の恋人アグネス・ラム」
「池沢さとしと世界のスーパーカー」
「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」
「宇宙人は地球にいた」「激突!」「イエロー・ドッグ」第3章 異文化と映画のスパーク
1 マンガ・劇画への挑戦
「あしたのジョー」「銭ゲバ」
「玉割り人ゆき」「玉割り人ゆき 西の廓(くるわ)夕月楼」
「嗚呼!! 花の応援団」「博多っ子純情」2 歌謡曲・演歌・ポップスの抒情
「夜の歌謡シリーズ なみだ恋」「昭和枯れすすき」
「濡れた欲情 ひらけ!チューリップ」「帰らざる日々」3 文芸作品の触発
「二十歳の原点」「櫛の火」「北の岬」第4章 日本映画の世代交代
1 撮影所の外からの新しい波
「HOUSE」「ボクサー」
「オレンジロード急行」「高校大パニック」2 時代を浮遊する女優たち
「赤ちょうちん」「妹」「バージンブルース」
「女囚さそり けもの部屋」
「ジーンズブルース 明日なき無頼派」
「赤い鳥逃げた?」「エロスは甘き香り」
「昼下がりの情事 古都曼陀羅」「濡れた荒野を走れ」
「恋は緑の風の中」「天使のはらわた 赤い教室」
「西陣心中」「十八歳、海へ」3 新型アイドルの誕生
「伊豆の踊子」「新・同棲時代 愛のくらし」「本陣殺人事件」
「感じるんです」「犬神の悪霊(たたり)」
「青春の構図」「暴力戦士」4 社会からはぐれゆく男優たち
「青春の蹉跌(さてつ)」「あばよダチ公」「最も危険な遊戯」
「悲愁物語」「さらば夏の光よ」「突然、嵐のように」おわりに
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