江戸紫について
正月ということで、少し明るい(?)話題を採り上げてみる。
島崎藤村著『夜明け前 〈第2部 上〉 (改版) 』(岩波文庫)を読んでいたら、「江戸紫」と「京紅」という言葉が出てきた。
本稿では、「江戸紫」に焦点を合わせる。
↑ 『助六所縁江戸櫻』 (画像は、「助六 - Wikipedia」より)
「江戸紫」というと、「佃煮に使用される醤油の別名「ムラサキ」に掛けた名称」ということで、昔よく食卓に上った、あるメーカーの、三木のり平のCMでも有名な海苔の佃煮ばかりが浮かんでくる。
しかし、上掲書によると、染めの一種の名称だという。
「江戸紫 とは - コトバンク」によると、「色名の一つ。JISの色彩規格では「こい青みの紫」としている。一般にも青みがかった紫色をいう。江戸時代、武蔵野に自生するムラサキ科ムラサキソウを使って江戸で染めたことから、この名がついた。赤みが強い京紫に対して、青みの強いのが特徴。また、古代紫に対して今いま紫とも呼ばれ、くすんだ古代紫よりも鮮やか。歌舞伎の人気演目『助六由縁江戸桜すけろくゆかりのえどざくら』で、主人公の助六が巻く鉢巻きの色が代表的な江戸紫として知られる」とか。
「『枕草子』の冒頭、「少し明りてむらさきだちたる雲の細くたなびきたる」という箇所は『紫色の雲』という意味と、『群がって咲く(ムラサキの)花のような』という両方の意味があるともされる。なお、ムラサキの花は白色である」というのは、さておくとして.。
← 「ムラサキ」 (画像は、「ムラサキ - Wikipedia」より)
「紫 - Wikipedia」によると、「「紫」はもともとムラサキ(紫草)という植物の名前であり、この植物の根(紫根)を染料にしたことから、これにより染色された色も「紫」と呼ぶようになった。この名称自体は、ムラサキが群生する植物であるため、『群(むら)』+『咲き』と呼ばれるようになったとされる。古来この色は気品の高く神秘的な色と見られた。また紫草の栽培が当時の技術では困難だったために珍重され、古代中国(漢代以降 - 時代が下ると黄色に変った)、律令時代の日本などでは、紫は高位を表す色とされ、主に皇族やそれに連なる者にしか使用を許されなかった」とある。
「江戸時代には江戸紫といわれる色が流行した。歌舞伎『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』で花川戸の助六が鉢巻にしているのがこの江戸紫である。それまでは、紫を染める草(紫根)が薬草であったため、武家などが病気の時に締るものとされていた。直情径行、頭に血が上り易い助六の熱さましとして巻かれた紫の鉢巻を、この芝居が大当りして以降、真似をして巻く者が現れた」という。
上掲の転記文の末尾にある、「直情径行、頭に血が上り易い助六の熱さましとして巻かれた紫の鉢巻を、この芝居が大当りして以降、真似をして巻く者が現れた」という点について、ふと思ったのは以下のこと。
「ムラサキの根は紫根(しこん)と呼ばれ、これを乾燥して粉末状にした上で湯に溶かして色素を抽出し、生地に灰汁による媒染を数十回施してようやく染物が完成する。紫根の持つ紫色の色素は、この植物から名を取ってシコニン (Shikonin) と命名されている。もともとムラサキが栽培困難なうえ、染色に手間暇がかかるため、紫根による染物は高価である」というが、さらに、「紫根は傷の殺菌作用などを持つために、漢方では生薬としても利用されている」とも。
より詳しくは、「ムラサキ - Wikipedia」によると、ムラサキの「根は暗紫色で、生薬「シコン」(紫根)である。この生薬は日本薬局方に収録されており、抗炎症作用、創傷治癒の促進作用、殺菌作用などがあり、紫雲膏などの漢方方剤に外用薬として配合される。最近では、日本でも抗炎症薬として、口内炎・舌炎の治療に使用される」ほどのもの。
つまり、ムラサキの根、つまり紫根を元にした色素、それで染めた鉢巻なので、殺菌作用などの効果があったのかも、なんてふと思ったりした。
→ 筑波山の雅称は紫峰 (画像は、「紫 - Wikipedia」より)
それにしても、なぜに「江戸紫」(ムラサキに江戸が冠せられているのか)なのかが今一つ分からない。
ムラサキなる草が江戸など関東に多かったからか(そもそもムラサキの繁殖地は何処なのか)、江戸でムラサキで染めた鉢巻が流行したことから、江戸紫という名称が定着したのか。
実際、調べてみると、「京紫」という名称(色)もあるが、これはあくまで「江戸紫」に対比して命名されたらしい。
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