領収書だけお願いします!
小生はタクシードライバーである。
往々にしてタクシードライバーはお喋り好きな人が多いと云われがちである。
本当などうか、分からない。
同僚とお喋りする機会は、仕事に絡む情報を得る意味でも逃さないが、印象では、これまでのサラリーマン経験での付き合いに照らして、それほど違うとは思えない。
ただ、仮にタクシードライバーがお喋り好きという世評(これも都市伝説の一つか?)が正しいとしたら、ドライバーは、日の大半の時間を車内で過ごすわけで、実車(お客さんが乗っている状態)の時間帯は、そのうちの半分もない。
つまり、車内においてドライバーは孤独であり、ラジオなどで沈黙の空間を埋めることもあるが、乗っていただいたお客さんをこれ幸いと、お喋りのいいターゲットにしているのかもしれない(← 根拠はきわめて薄い)。
小生の場合、車内などでのお客さんとの会話は、天気やその時の時事(地震やニュース)などが話題の材料となることが多い。
それも、必ずしも、こちらから話を切り出すわけでもない。
むしろ、たとえば、近い距離だからと恐縮して乗られる方、体が不自由で荷物の積み下ろしを手伝ってもらうことを申し訳なく感じられる方に、そんなことは決してないという思いを、敢えてまるで関係のない天気などの当たり障りのない話題を持ち出すことで、お客さんの気詰まりな感情を和らげようとすることが多いくらいである。
あるいは、仕事やプライベートでの鬱憤をタクシードライバーにぶつける人も少なからずいるのだが、そういった方の感情をあの手この手で、まあ、ソフトな会話で何とか逸らそうと、話を持ち出すこともあったりする。
さて、小生は、東京で12年と3か月ほど、富山では1年と8か月余り、通算すると、14年ほど、タクシードライバーとして生計を立ててきた。
お客さんとのやり取りは、通常は、乗車の際の、どうぞ! とか、宜しくお願いします、(相手が行き先を云わないときは)どちらまで参りましょうか、などの挨拶、降車の際の、ありがとうございます! お忘れ物はございませんか? などの簡単なものに終始する。
そんな中、あるいはこれはタクシーに限らないかもしれないが、新人の頃、誤解しかけたお客さんの文言がある。
それは、「領収書だけお願いします」というお客さんの一言。
降車の際、数百円の乗車料金に対し、お客さんは千円札を出される。
丁度のお金を出される方は滅多にない。
当然ながら、小生は釣銭を渡そうとする(自慢じゃないが、14年のタクシードライバー生活で、釣銭を切らしたことは一度もない。ギリギリ切羽詰って、コンビニで買い物したり、自動販売機で缶ジュースなどを買って小銭を用意したことはあったが)。
釣銭を用意しながら、領収書、ご用意しますかと、お客さんに問いかける。
要らないという人が結構いるのである。
すると、ほんの時折だが、お客さんが「領収書だけお願いします」という言い方をされる(これまで数回、あった)。
「領収書、お願いします」じゃなく、「領収書だけお願いします」なのである。
この文言からすると、字義通りに取れば、領収書だけ必要で、釣銭は要らないよ、という意味合いになるだろう。
日本語の常識からすると、この理解に間違いはないはずである。
国語の時間に「領収書だけ、お願いします」と相手が言えば、こちらとして、領収書だけ渡せばいいと理解して、誰も文句は出ないだろう。
しかーし、この言い草に騙されてはならないのである。
「領収書だけ、お願いします」と云ったお客さんで、釣銭をもらわないお客さんは一人もいない。
この「領収書だけ、お願いします」は、釣銭はもちろん貰うけど、領収書は必要なので、間違いなく発行し、渡してほしい、という意味なのである。
つまり、「釣銭は、もちろん、領収書もちゃんと渡すべし!」という意味なのである。
初めて、この「領収書だけ、お願いします」という表現に接したとき、人間が素直で(?)、社会的経験や常識の乏しい小生、実際、領収書だけ渡し、黙っていたら、お客さんが出ていかない、そのうち、釣銭は? と問い質され、あれ? 釣銭も要るの? と慌てて釣銭を揃え、お渡ししたことがあった。
小生のドジなのだろう。
→ 不意打ちにも近い、今の時期のドカ雪だが、昨日あたりでようやく峠を越えてくれた。今日は自宅で、せっせと除雪、除雪!
断っておくが、日に数回、実際にお釣りは要らないよと云ってくださる方はいるが、決してチップを期待して仕事しているわけではない。
ここは日本なのだ。現金正価なのである。
釣銭も、小銭もお札も準備万端である。
ただ、日本語の(タクシー営業においての)特殊な言い回しに戸惑っただけなのである。
「領収書だけ、お願いします」という特殊な(?)言い方には、日本人独特のシャイな面が現れているようにも思える。
釣銭を言葉に出して求めるなんて、なかなか、という方も多いわけである(釣銭を出すのは、当たり前じゃないか! という思いもあるのだろうし)。
だから、「釣銭は、もちろんじゃないか! 領収書もちゃんと渡すべし! 」という意味を「領収書だけ、お願いします」という婉曲な(?)表現で示しているのだろう、そう小生は理解している。
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コメント
金額を書かなくてもいいからね、領収書だけくださいよ、
かもしれません。
なににつけ、~だけ、って言ってしまう癖かもしれません。
~のほう、みたいに。
ちょっとだけ、そんな婉曲な表現を端折ったのかもしれません。
なににつけ、ちょっと、をつける人はいますね。
ちょっとひどすぎる、のように打ち消しあうときが分からなくなりますが。
投稿: 青梗菜 | 2012/12/14 00:35
この記事のタイトルで想像したのは、車を使わずに領収書だけをとってアリバイ工作をして、経費として請求することがあるのかなというものでした。少なくとも移動時間の数時間は空白の時間ができますよね。実際にそうした請求はあり得ますか?
投稿: pfaelzerwein | 2012/12/14 16:28
領収書って、レシートでしょう。
東京だとレシート要りますか?と聞いてくる運転手結構いますね。
まあ仕事でタクシー利用したなら、会社に出すのに、レシートは絶対必要ですからね。
僕は1460円なら、2000円出して、釣りは500円で良いよ、って感じかな。
しかし、弥一さん、細かいのをきちんと持参しているとはさすが。
中には一万円札出す客が続くことありますよね。
投稿: oki | 2012/12/14 23:24
たまにタクシーに乗りますが、領収書はいらない派です。
経費になりませんもの。
「だけ」なんて言う方がいるんですね。
日本語は正しく使っていただかないと。
ドライバーの方とは、ほとんど話しません。
短い距離が多いからかしら。
投稿: 砂希 | 2012/12/15 20:37
青梗菜さん
「領収書だけ、ください」なんて持って回ったような表現、よく言えばナイーブというか、直接的表現を敬遠する方なのでしょうね。
あるいは、小生などの窺い知れない意図があるのかもしれない。
ブランクの領収書…とまでは言えなかったのか、なんて考えるのは考え過ぎか。
投稿: やいっち | 2012/12/15 21:55
pfaelzerweinさん
アリバイ工作のための手伝い。
カードでの支払いのケースがたまにあります。
その際、領収書を求める方がいます(カード支払いの方の半分ほどか)。
当然、未収(現金での支払いは成り立っていない)のはずなのに、あるいはだからこそなのか、未収じゃなく、支払いが済んだかのような領収書を求める方も結構、いる。
ははーん、こいつ、常習だなって気づきますが、知らん顔で、未収ではないレシート(領収書)を発行する。
投稿: やいっち | 2012/12/15 22:01
okiさん
東京での、領収書、お出ししますか、という運転手側からの問いかけは、会社が指導しているからでしょう。
お客さんが忘れることがありえるし、料金が少ないとか、女性などナイーブな方は、領収書を出してくれと、自分から言い出せないことも多い。
なので、敢えて運転手側から確認させているわけです。
タクシー会社では、領収書の発行は、義務なのです。
チップは、雨や近距離で申し訳ないとか、盛り場への客の場合に多い。
日に数百円から、千円、二千円ほどになることも。
釣銭は、万全です。
東京時代、一万円で基本料金という方が四回連続、間に千円余りの方が一人いて、その次また万札で基本料金ほどの客、といったふうに続いたことがありました。
でも足りないことはなかった。
投稿: やいっち | 2012/12/15 22:10
砂希さん
小生、コンビニでの買い物でも、必ず領収書(レシート)はもらいます。取っておくし。
一人暮らしの身なので、会計(家計簿)を昔から点けていた。
収支のチェックだし、生活の記録の意味もある。
これは、学生として一人暮らしを始めて以降の習慣で、四十年の間の領収書を保存してある。
実際に役に立ったことはないけれど。
タクシーのお客さんとの会話は、常連の方(会社の顧客)が多いこともあり、結構します。
車内の空気を柔らかくすることもあるけど、高齢の方など、自宅で引きこもりがちだったりするので、タクシードライバーであっても、お喋りできるのが嬉しいと仰る方も結構、いるのです。
サービスの一環ですね。
投稿: やいっち | 2012/12/15 22:18
東京でタクシー乗務歴20年ですが、いまだにこの‘’だけ‘’に出くわします。本来の意味で使われる方は20〜30人に1人くらいではないでしょうか。理解不能です。
投稿: かえるのこ | 2017/12/12 22:23
かえるのこさん
領収書だけって、経費を自腹で立て替えしているので、何が何でも領収書が要るってこと。
但し、つり銭は当然、もらう。
なので、つり銭は決して渡し忘れてはいけないのですね。
投稿: やいっち | 2017/12/18 20:49