枯れ葉の行方を追う
先行きを見通せない森の杣道を体を縮めながら踏み分けていく。
頭に毛虫、首に蛭、手には蜘蛛、腰には蝉の抜け殻、膝には折れた枝の破片、靴には蚯蚓のような紐。
足下から蛙の喘ぎさえ、漏れ聞こえる始末。
孤独に浸る暇などない賑やかさだ。
木漏れ日が森の闇の中で溺れそうだ。
溺れて、今にも窒息しそうだ。
口づけて、息継ぎしてやるべきか。
…けれど、遅疑逡巡している間に、迷い込んだ日は泡のように弾け消えた。
闇に溶けて消えた日の真似をしたくなった。
どうやったら森の中で溺れられるのだろう。
息を吐く、息を吸う。吸った息が肺の中でもがき苦しんでいる。
肺胞が森の気を嫌っているのかもしれない。
ガラス面に映るビルの影。
苔むし罅割れたコンクリートの波。
歩道橋を渡るものは、道に迷った蟻が数匹。
路面を枯れ葉が滑っていく。路肩でひと時の安らぎを求め、溝に永遠の眠りを得る。
歪んだ空間、捻じれた時間、閉じた夢、封印された嘆き。
時空は収斂し、街並みは発散する。
肺腑は肋骨に貫かれ、肉片は散り散りとなり、体液は蒸発し、骨はアスファルトに削られてしまう。
蕩けた思いは異次元の重みに沈んでいく。
骨と肉の残骸は抽象の海に漂っている。
まだ命脈があるかのように形を描こうとしている。
それは偶然の営み、けれど祈りにも似た真率な足掻き。
浜辺に散る骸(むくろ)の影を追っていく。枯れ葉の行方を追うかのように。
| 固定リンク
「恋愛・心と体」カテゴリの記事
- ハン・ガン著『少年が来る』から<吉本>へ(2025.05.23)
- 仕事の車中の愉しみは(2025.05.22)
- 「水」は地球人に限らず永遠のテーマでは(2025.05.21)
- シンガーの本からスナウラ・テイラー の『荷を引く獣たち 』を再認識(2025.05.20)
- 不況は深刻化するばかり(2025.05.19)
コメント