夢ループ
口の中は、溶液状のバリウムでいっぱいだ。
乾くことを知らない粘土が喉の奥から途切れることなく湧き出てくる。
近所のガキどもが戯れるクレイソープのようでもある。
いや、このどこかパサパサした感じは紙粘土か。
早く吐き出さないと口の中が埋まってしまう。
けれど、すぐ近くには人がいる。
知っている奴だ。
恥を晒したくない。
苦いような、どこかほんのり甘酸っぱいような、けれど、誘惑に負けて味を楽しもうとすると、そいつは異物となって喉の奥を擽る。
嘔吐したくなる。
口から喉へ、喉から胃へ。
いや、胃じゃなくて、気管支を通って肺腑へ。
吐きたい衝動と、咳き込む苦しさと。
咽(むせ)る咽頭。
胃から、それとも肺胞から溢れ出した粘液ではないのか。
口の中で湧き出す膿(うみ)。
歯肉から滲み出す黒い血糊。
歯槽膿漏。詩想朦朧。
溢れ出そうとする粘土を口を堅く閉ざして堪える。
俯いて流しへ向かう。
秘密は誰にも知られたくない。
自分だって目を背けているのだ。
流し台に左手をついて、右手で口中の固まりかけのコンクリートを掻い出そうとする。
粘って、手にペタッと張り付いてしまう。
塊を取り出した…と思ったら、ペイスト状の塊は口中の粘膜に張り付いているのだった。
無理やり削るようにして抉り出したら、肉片をも剥がしてしまうに違いない。
どれだけ掻い出しても胃も肺も喉もすっきりしない。
口の中に手を突っ込みすぎて、息ができず、ついには涙目になっている。
終わりのない夜。
ループをなす夢。
際限のない死。
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