夜のドライブ
過日、夜、富山の郊外を走る機会に恵まれた。
夜中ではないが、ちょっと郊外に出ると、街道沿いであっても、人影はなく(少なくとも走行中、一人しか見なかった。その人は、トンネルの中をマラソンしていた)、悲しいかな猫の死骸を一体、路肩に見かけただけである。
富山市の町中から、ほんの三十分も走ると、人家は、街道沿いの家々だけになる。
さらに三十分も走ると、山間の峠道、川の源流に沿って作られた街道が延々と続くだけになる。
片側は川へ続く断崖、別の側は山の斜面であり、往々にして崖のように道に迫ってくる。
それでも、車にはカーナビを搭載している。
ナビが道を示してくれる。脇道もある。
脇道の先が床しい。
どんなに走っても、そこには家がある。作業小屋だったり、立派な一戸建てだったり、営業所だったり。
ナビは道を示してくれる。
ヘッドライトの光の届かない、遥かな先も、通り過ぎた道さえも、黄色いラインとして描かれている。
その軌道を外れない限り、生きていける。
夜の峠道を走りながら、ナビなど想像の外だった、オートバイでのツーリングを思い出した。
若い頃はオートバイを駆ってのツーリングでこういう状況に幾度となく遭遇している。
ツーリングに熱中していたころは、雨が降ろうとも毎週日曜には早朝に起きだしてオートバイに跨った。
前夜からツーリングの準備はしてあるので、あとはひたすら走るだけである。
一応は目的地のようなものを設定しておく。
念のために地図か必要な情報を抜き出したメモ書きくらいは用意したものだが。
しかし、目的地などは名目に過ぎない。
肝心なのは走ることにある。
どこまでも淡々と走る。
高速道路など整備されていなかったし、そもそも利用する気もなかった。
一般道を勘と閃き(?)を頼りに走っていく。
目的地…大概は眺めのいい、オートバイを止めやすい、人の少ない場所。
天気が良ければ、シートを敷いて、景色を眺めつつ、持参した本を片手に…眠りにつく。
ほとんど何も食べない。自販機があれば、何か飲むくらいのものだ。
禁欲的なツーリング? 食べるのが面倒なだけだ。
明るいうちに帰路に就くつもりでいたのに、ついつい遅くなってしまう。
道を間違えるのが遅延の原因であることが多かった。
どの道だろうと、いずれは帰路に繋がるはずではないか…。
宵闇が夜の闇に変わっていく。
ヘッドライトが闇を照らす。
今と違ってライトの力は弱い。
光が闇に呑み込まれるように感じられる。
蟒蛇(うわばみ)のような闇。
山の木々や深い藪。分け入っても分け入っても闇。
ヘッドライトがかろうじて浮かび上がらせる道を必死な形相(のはず)の自分が追う。
曲がりくねった道。バイクの走行にライトが追い付かない。
しばしば路肩ギリギリに迫ってしまう。
慌ててブレーキングし、スピードを弱め、道を再確認する。
国道でさえ、山間だと舗装されていない。
砂利道を走ると、タイヤが上滑りしているように感じられる。
大き目の石にタイヤが乗っかると、ズズッと滑ってしまう。
奈落の底のような崖下。折々、月の光の照り返しが遠くに夢のように浮かんでくる。
月があれほどありがたいと感じたことはない。
鬱蒼と生い茂る木々が追い被さってくる。
どこまで走っても闇の塊が圧し掛かってくるだけ。
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