読書拾遺ふたたび
暑い中、ちびいりちびりと読書。
久しぶりに文学や科学エッセイを離れ、戦後史の闇を抉る、時事的な本を手にした。
← 孫崎 享【著】『 戦後史の正体―1945‐2012』(「戦後再発見」双書〈1〉 創元社)
「元外務省・国際情報局長が最大のタブー「米国からの圧力」を軸に、戦後70年を読み解く」といった本。
3年前まで防衛大学校の教授をされていた。
外務省の主流ではなく、やや傍流を歩まれた。
アメリカ追随派と自主独立派の抗争が日本の政府にも外務省においてもあった。
田中角栄を筆頭に、自主路線を取る首相らは、アメリカに徹底して潰されてきた。
韓国が旧日本軍主導の従軍慰安婦問題で日本の対応に怒っているようだが、日本において戦後、それも敗戦直後、占領軍たるアメリカ兵らのために、軍どころか政府首脳らが主導して従軍慰安婦を用意した、という指摘にびっくり。
日本の終戦(敗戦)の日は、8月15日じゃなく、無条件降伏の文書に署名した9月2日だ、というのも、目に鱗だった。
ロシアもイギリスも、9月2日の無条件降伏文書への日本側の署名を以て勝利を確認したのだ。
戦後、軍の幹部のみならず、政治家や宮中関連の人たちがアメリカ軍当局者に命乞いをした、なんて話はあまりに生臭い。
といいつつ、本書を読み始めたばかり。
東日本大震災以降、世界を見る目が変わった、なんて連中を多々目にする。
小生からすれば、とんでもない話。
かの戦争において、日本人だけでも3百万人、アジア各国だと数千万人が犠牲となった。
アメリカによって原爆も投下された。
空襲は、軍事拠点ではなく、住宅街を狙い撃ちだったという事実が最近、文書で確認された。
大震災も忘れてはならないが、戦争はもっとだろう!
← ニック・レーン著 『 生命の跳躍 進化の10大発明( LIFE ASCENDING ) 』( 斉藤隆央訳 みすず書房)
読み終えて、ニック ・レーンの達筆ぶり、視野の広さ、思考と叙述のち密さに改めて感心させられた。
考えるヒントがいっぱい詰まっている。
← 『 ちくま文学の森 4 おかしい話 』(とくま文庫 筑摩書房)
ちなみに、以前も書いたが、本書の内容は、というと:
おかし男の歌 長谷川四郎/太陽の中の女 ボンテンペルリ(岩崎純孝)/死んでいる時間 エーメ(江口清)/粉屋の話 チョー サー(西脇順三郎)/結婚申込み チェーホフ(米川正夫)/勉強記 坂口安吾/ニコ狆先生 織田作之助/いなか、の、じけん抄 夢野久作/あたま山 八代目林家正蔵演/大力物語 菊池寛/怪盗と名探偵抄カミ(吉村正一郎)/ゾッとしたくて旅に出た若者の話 グリム(池内紀)/運命 ヘルタイ(徳永康元)/海草と郭公時計 T・F・ポイス(龍口直太郎)/奇跡をおこせる男 H・G・ ウェルズ(阿部知二)/幸福の塩化物 ピチグリッリ(五十嵐仁)/美食倶楽部 谷崎潤一郎/ラガド大学参観記 牧野信一/本当の 話抄 ルキアノス(呉茂一)
今まで読んだ中では、やはりと言うべきか、 結婚申込み チェーホフ(米川正夫)が群を抜いていた。戯曲としてのありがちなドラマツルギーだが、まんまとチェーホフの術中にはまってしまう。
ゾッとしたくて旅に出た若者の話 グリム(池内紀)も面白かった。さすがにグリムは物語るのが上手い。
あと、海草と郭公時計 T・F・ポイス(龍口直太郎)も印象に残った。
美食倶楽部 谷崎潤一郎は、ややがっかり。
美食に執する男らに、むしろ脂肪ばかりを感じてしまった。
さすがに、土を喰らう式に向かえとは言わないが、退屈。
作家にか、それとも美食家に感性と想像力の枯渇を嗅ぎ取ってしまった。
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