『タイピー』から『白鯨』に至る謎
本日、三回忌の法要、つつがなく(?)終えることができた。
肩の荷が降りたという感が強い。
← ハーマン・メルヴィル:著『 タイピー 南海の愛すべき食人種たち』( 中山 善之:訳 柏艪舎)
喪主なので、責任がのし掛かっている気が、ずっとしていた。
法要のあとの会食を終え、自宅に戻ったら、体から力のようなものがスッと抜けたようで、長椅子に体を沈めたら、脱力状態のように。
父母が亡くなって丸二年が過ぎた。
畑や庭、家の中のこと、全て三回忌まで取りあえず頑張る気できた。
家の主であることから解放されるわけじゃないが、何をするにしても、目的意識の幾分かは薄れるような…
今後、少しは自分のことも考えていかないと。
でも、具体的に何?
本夕、 過日より自宅で読み始めていた、ハーマン・メルヴィル著の『 タイピー 南海の愛すべき食人種たち』( 中山 善之:訳 柏艪舎)を読了した。
この副題は、戴けない。
無知な、好奇心だけはある読者の気を一瞬は引けるかも知れないが、そういった通りすがりの読み手は、本書をパラパラ捲って、やや読みづらいという文面に、即座にめげて、本書を手放すだろう。
訳が今一つなのか、活字の組み方が美的でないように感じられるし、肝心の内容も、冒険活劇風な作品とは縁遠い。
以前も書いたように、「 海と冒険とロマンを求めるあなた」は、失望しそうな雰囲気が冒頭から漂っている。フランスを始め、太平洋の諸島を占有したヨーロッパやアメリカへの批判精神に満ちている 。
メルヴィルは、大方の船乗りとは、資質が違う。
原住民を宣教せんとする連中への、やや遠慮しがちな批判精神が根底に処女作であるこの作品に早くも息づいている。
こんな書き方では、売れるはずもなかった。
但し、念のためメモしておくが、鬼気迫る場面も数ヶ所あることは、保証できる(通俗作家なら、そういった場面に焦点を当てて、読者の好奇心を煽るのだろうが、そんなサービス精神にはやや欠ける)。
← ハーマン・メルヴィル『白鯨 (上)』( 八木 敏雄【訳】 岩波文庫)
メルヴィルの資質は、本書からさほど歳月を経ないで、『白鯨』で炸裂する。
というより、だからこそ、小生はあの名作の書き手が若い頃、どんな人生を送り、どんな作品を書いたか、好奇心で本書を手にしたのだ。
本書を読んで感じたのは、なる程、メルヴィル26歳が書いた本書(処女作)の中に後年のメルヴィルの資質の片鱗は見いだせるとしても、それは後知恵というもので、むしろ、この書き手が、ホンの6年後にどうして『白鯨』を書き得たのか、それこそが謎だ、というものだった。
こうなったら、久しぶりに『白鯨』に挑戦しないとならないだろう。
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コメント
三回忌、お疲れ様でした。
わたしも長男であるため、参考にさせていただく点もあるかと思います。
『タイピー』が処女作、失念しておりました。
猛暑がつづくようですが、どうぞご静養ください。
投稿: 瀧野信一 | 2012/07/29 14:14
瀧野信一さん
長く、バタバタしてきましたが、ようやくお役御免です。
長男の責任、昔も今も、ですね。
今夏は、ずっと暑い日が続くようです。
年々、暑さ寒さが耐え難くなってくるようです。
お互い? ひたすら、サバイバルですね。
今回、今更のように気付いたのですが、このやや生硬な『タイピー』作品から、僅か六年後の32歳で『白鯨』を書いたってことに脅威を覚えます。
投稿: やいっち | 2012/07/29 21:50