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2012/06/30

裸足のダンス

(前略)時に体をしなやかにくねらせるダンスを眺めながら、 アフリカの乾いた草原を豹かライオンのような猫族の猛獣 が、特に獲物を狙うでもなく、ただ足音も立てずにのし歩く、その様を想ってみたりしただけだ。

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 白っぽい土煙。吹 き抜ける乾き切った熱い風。何処か血生臭かったりする大気。容赦な く照り付ける太陽。影と日向との輪郭が、匕首よりも鋭い 大地。 肉体。

 人間は、どうしても、モノ を想う。思わざるを得ない。言葉に したくてならない。言葉にならない ことは、言葉に縋りつくようにして 表現する奴ほど、痛く骨身に感じている。
 でも、分かりた い、明晰にこうだ! と思いたい、過ぎ行く時を束の間で もいい、我が手に握りたい、零れ落ちる砂よりつれない時 という奴に一瞬でもいいから自分が生きた証しを刻み付け たい、そんな儚い衝動に駆られてしまう。

 でも、肉体は、肉体なのだ。肉体は、我が大地なのである。未開のジャングルより遥かに深いジャングルであり、 遥かに見晴るかす草原なのであり、どんなに歩き回り駆け 回っても、そのほんの一部を掠めることしか出来ないだろ う宇宙なのである。

 肉体は闇なのだと思う。その闇に恐怖するから人は言葉 を発しつづけるのかもしれない。闇から逃れようと、光明 を求め、灯りが見出せないなら我が身を抉っても、脳髄を 宇宙と摩擦させても一瞬の閃光を放とうとする。

 踊るとは、少なくともあの日見たダンスは、そんな悪足掻きをする小生のような人間への 、ある種の救いのメッセージのようにも感じられた。

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 肉体は闇 でもなければ、ただの枷でもなく、生ける宇宙の喜びの表 現が、まさに我が身において、我が肉体において、我が肉 体そのもので以って可能なのだということの、無言の、し かし雄弁で且つ美しくエロチックでもあるメッセージなのだ、と。


(「裸足のダンス」 (03/11/30)より抜粋)

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