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2012/05/12

タクシー客事情(1)

 かなりご高齢の酔漢である。
 タクシー乗るのも危なっかしい。
 体を支えて、ゆっくり慎重に乗せないと。乗車の際、特に頭を乗車口の縁にぶつけないよう、運転手たる私の手でガードする。

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 幸いその時は介添え人がいた。
 同じ会社の後輩なのか、それとも何かの仲間なのか。その人は現役バリバリという感じ。
 付き合いで深酒に付き合ったようだ。

 店のママが年配の馴染み客に家の住所を聞き出そうとする。
 が、酔漢は、あーとか、うーとか、何やら言葉らしい呟きを発するだけ。
 喋るのも億劫なほど酔っている…あるいは、酔漢独特の我が儘で、何も言わなくてもオレの家ぐらい、黙ってても連れていけよってパターンなのか、周りに甘えているだけなのか。
 ママが訊いてもダメなので、今度はどうやらタクシーに無事乗せることができて安堵した介添えの男性が
聞き出そうとする。
 やはり、ダメ。

 いいよ、運転手さん、出して、ボクが分かるから。
 とにかくA町へ向けて走って。
 云われるままに、その町の方へ。

 しばらくして男が、ほら、あそこにB銀行があったでしょ、その角、右に曲がって。
 脳裏にその銀行の周辺の光景が浮かんでくる。
 アソコなら分かる…
 角を曲がると、男は、運転手さん、ゆっくり走って、と言う。
 後続車に気をつけつつ、ソロソロと走る。
 えーと、ああ、そこだ、そこで止めて。

 着きましたよー、懐かしい我が家ですよと、男はお爺ちゃんに呼びかける。
 お爺ちゃんは半ば寝入っている…それとも起きあがるのが面倒くさいのか、車内でグズグズしている。
 男がタクシーを降りて、お爺ちゃんに何度も呼びかけるけれど、起きないし、まして動こうとはしない。

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 いつもなら運転手たる私が一人でやっていることだ。
 しかも相手はお客様なので、気安く声を掛けたり、体を揺するわけにはいかない。
 その前に、タクシーにチャンと乗ってもらえたかどうかさえ、覚束なかったろう。
 ああ、今日は付き添いがいて助かった!

 男性も介添え人役ですよ、私はと、自嘲気味に、それとも愚痴っぽく呟いている。
 どうやらこれまでに何度も送り届ける役目を担ってきた口ぶり。
 あとで分かったのだが、会社ではその方と比較的家が近いこともあって、いつしかそんな役回りと相成ったようだ。

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コメント

ふむ、お客さまと言えども、目的地を言わない、着いてもおカネを払わない、等々あれば、警察を呼ぶしかないでしょうが、そこいら辺は運転手任せ、会社の方針があるのですか?
そもそも、どんなお客でも乗せなければならない?
見るからに浮浪者みたいな人でも手を上げたら止めなくてはならない?
そこいらへんがわからない僕です。

投稿: oki | 2012/05/12 22:05

やいっちさん

こんばんは。

タクシーに乗りますと
上下振動やシートの座り心地、
空間の香りやラジオの声等に耳を傾けながら
それら全てがとても心地良くて、
つい爆睡してしまいそうになります。

お客様(お爺様)の眠くて眠くて仕方のない様子が伝わって参ります。

そう言えば祖母は生前、夕食中に箸と茶碗を持ったまま寝ていましたね・・
起こしたら可哀想、しかし茶碗は洗いたい。

投稿: のえるん | 2012/05/12 23:21

okiさん

空車で走行中、路上などで人(客)が(タクシーを見て)手を挙げたら、基本的には必ず止まらないといけない。
基本的に誰でも乗せないといけない。
浮浪者がタクシーに乗るのか分かりませんが、料金を払ってくれるなら、でしょう。

そうはいっても、目的地を言えないような酔漢、汚れた服装の人は断ることもあります。

汚れた服装だったりすると、タクシーのシーツが汚れ、そのあと仕事になりません。
無論、至急、営業所に戻り、シーツを交換するとか、ゲロで汚れた車内を洗えばいいわけですが、最低、二時間は営業時間のロスを覚悟しないといけない。
その損失をゲロした客が弁償してくれれないいけど、そんな殊勝なことを酔漢が気遣う。はずもない。
実際、既に富山でそんな目に遭いました。
運転手たる小生がバカを見ただけ。
富山では大手の銀行のOBさんだったのですが。

投稿: やいっち | 2012/05/14 02:23

のえるんさん

快適な走行は理想ですね。
お客さんに安心して乗ってもらえることが運転手にとっても理想です。

女性だと、タクシーに乗るのも、躊躇うこと、ないですか。
選ぶタクシーは会社やドライバーを決めている?

今回のケースだと、お爺さんは、一人になるのが寂しくて、グズっていたのかも、なんて。

投稿: やいっち | 2012/05/14 02:28

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