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2012/03/03

ゴーゴリ「鼻」の周辺

 つい先日、車中にて、ゴーゴリの小説『鼻』を読むことができた。
 ゴーゴリは学生時代以来、小生の大好きな作家で、ひさしぶりに読んだが、やはり語り口の上手さが際立つ。

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← ゴーゴリ『外套・鼻』( 平井 肇 (翻訳)  岩波文庫)(画像は、「 Amazon.co.jp: 外套・鼻 (岩波文庫) 」より)

「鼻」絡みの小説というと、小生の乏しい読書体験では、このゴーゴリの『鼻』、芥川龍之介のやはり『鼻』、 エドモン・ロス タン作の五幕の韻文戯曲 『シラノ・ド・ベルジュラック 』などが浮かぶ。
『シラノ』は二度しか読んでいないが、ゴーゴリや芥川の『鼻』は何度、(身につまされつつ)読んだことやら。
 芥川の『鼻』は、初めて読んだのが、教科書でのことで、一層、居たたまれない肩身の狭さを覚えつつ(時に声を上げて!)読む羽目になったものだ。

 せっかくなので、ネタバレ歓迎で、それぞれの作品の粗筋(概要)を示しておこう。

 芥川竜之介『鼻』(「 鼻 (芥川龍之介) - Wikipedia 」):

池の尾(現在の 京都府 宇治市 池尾)の 僧である禅智内供(ぜんちないぐ)は五、六 寸(約15 -18cm)の長さのある滑稽な鼻を持っているために、人々にからかわれ、陰口を言われていた。内 供は内心では自尊心を傷つけられていたが、鼻を気にしていることを人に知られることを恐れ て、表面上は気にしない風を装っていた。

ある日、内供は弟子を通じて医者から鼻を短くする方法を知る。内供はその方法を試し、鼻を短 くすることに成功する。鼻を短くした内供はもう自分を笑う者はいなくなると思い、自尊心を回 復した。しかし、数日後、短くなった鼻を見て笑う者が出始める。内供は初め、自分の顔が変 わったせいだと思おうとするが、日増しに笑う人が続出し、鼻が長かった頃よりも馬鹿にされて いるように感じるようになった。

             (中略)


鼻が短くなって一層笑われるようになった内供は自尊心が傷つけられ、鼻が短くなったことを逆 に恨むようになった。

ある夜、内供は鼻がかゆく眠れない夜を過ごしていた。その翌朝に起きると、鼻に懐かしい感触 が戻っていた。短かった鼻が元の滑稽な長い鼻に戻っていた。内供はもう自分を笑う者はいなく なると思った。

シラノ・ド・ベルジュラック (戯曲) - Wikipedia

『シラノ・ ド・ベルジュラック 』(Cyrano de Bergerac)は、エドモン・ロス タン作の五幕の韻文戯曲。題名通り、17世紀フランスに実在した剣豪作 家、シラノ・ド・ベルジュラック を主人公にして」おり、戯曲においては、「哲学者であり、理学者であり、詩人、剣客、音楽家と多才だが、類まれな醜い容 姿を持つ」人物として設定されている。
 彼の醜さの印象的な特徴は、戯曲では、長鼻のようである。

 本編は長いので、 「シラノ・ド・ベルジュラック (戯曲) - Wikipedia」を参照願いたい。

鼻 (ゴーゴリの小説) - Wikipedia」:

ペテルブルク のウォズネセンスキイ通りで暮らしているイワン・ヤーコウ レヴィチという理髪師が朝食を取っていると、パンの中から人間の鼻が出 て来た。その鼻は常連客である八等官のコワリョーフの物であると彼は直 ぐに悟った。この鼻をどうすれば良いのか悩んだ挙げ句にどこかに捨てて しまおうと心を決めて実行しようとしたが、知人や警官に見付かってしま い失敗する。そうした中で八等官コワリョーフは自分の鼻が消滅している 事に気が付いて戸惑いながらも探す為に新聞社に広告を掲載して貰おうと するが、一笑に付されてしまった。その後、彼の鼻は見付かり、病院に駆け込むが医師には治療 を拒否されてしまう。ある日突然彼の鼻は元に戻り、コワリョーフは上機嫌な毎日を過ごす様に なった。

 ゴーゴリの『鼻』を改めて読み返してみて、語り口の上手さは別にして、彼は小説としてのリアリティなど最初からまるで狙っていない、むしろ度外視している。
 小説としてのリアルさを期するなら、鼻が無くなって、鼻呼吸が出来ない苦しさを多少なりとも描いたはずなのである。

 カフカの世界とはまたひと味もふた味も違う不条理の世界を描いている…というのとも違う。
 別に、ある日、突然、鼻が戻ったからといって、芥川の小説のような教訓(説教)風な色合いもない(芥川が説教じみた小説を書いたと主張したいわけじゃない。誤解のなきよう!)。

 ゴーゴリの小説は不条理の域を遥かに越えていて、滑稽味すら濃厚に漂っている。
 帝政ロシアの現実の混沌ぶりは、想像谷出来ないものだと察せられるばかりである。

 我々はだから、ゴーゴリの小説をただ味わえばいいわけである。

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