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2012/02/21

生きることは罠

 少年、老いやすく、間違いを仕出かしやすい。
 闇の世に生まれて、そこに道はなく、光もベッドもない。

 生んだものは、振り返ることなく、ただ去りゆく。
 形はなく、輪郭もなく、庇護もなければ、愛もない。

 気がつけば路傍の石。風に舞う紙屑、吐き出された林檎の皮。
 歪んだ本能が、ねじくれた岩盤の隙間を抜い、這いつくばい、不恰好な欲情の奔騰となり果てる。

 三角形の二辺は、残りの一辺より長い。
 矛盾とは股裂きのただ中の緊張。

 光に似た、その実、目くらましとの違いの見いだせない誘惑の力。
 導きの紅い糸は、眼窩を伝って延髄に辿り着く。
 愛欲は、果てしのない泥沼、死と背中合わせの交合、終わりのない狩猟、貪るしかない衝動。

 お前はただそこにあるだけで、毛嫌いの種である。
 何故ならお前は過ちしかなす能わないからだ。
 誰も見向きもしない、否、目を背け、足早に通り過ぎていく。
 あってあるものでありつつ、なくてないものであらねばならぬ。
 あってはならないのだ。

 世は健全であらねばならぬ。
 だから、理屈はどうであれ、不具合は片付けられねばならぬ。
 だからお前は死刑という名の爪弾きの憂き目が宿命付けられていたのだ。
 呪詛、 怨嗟の声の巷、生け贄があってこそ保たれる秩序。

 お前には、生きることは罠だったのだ。

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コメント

死刑という言葉に反応。
ちょうど光市母子殺害事件で死刑判決がでた。
18歳とちょっとですね、判決は大変厳しい。
だれもが心の闇を抱えている、逮捕から13年、良い青年になった殺人者はみずからを見詰め直したのではないか?
更正は不可能と、この若い青年に言うことは残酷にすぎないか。
そもそも死刑判決がでてもなぜかこの国は死刑が執行されない。
死刑囚となったこの青年はどんな思いでこれからの長い日をすごすのかと思うとやり切れない。

投稿: oki | 2012/02/21 21:08

okiさん

本稿はもちろんこの度の判決に反応して書き下ろしたものです。

まず、犯罪者たる彼はとんでもない奴です。
母子の家に押し入り奥さんを犯し、子供を殺した、そんな奴は許されていいはずがない。
若かろうが生まれ育ちにハンディがあろうが、言い訳にもならない。

若い彼が更生する可能性があるのかもわからない。
可能性があっても、それで犯され殺された者が癒されるはずもない。

それはそれとして、奴は狭い狭い道を歩くしかなかった。母子殺しに限らず、犯罪者・アウトローとして以外に生きる余地があったのか、甚だ疑問。
生まれながらに許されざる人間に追い込まれたとも考えられる。
母子の旦那は立派な社会人のようです。
今は再婚さえされている。
一度も結婚する機会を得られなかった小生には羨ましくてならないそんざい。
持てるものと持たざるもの、日の当たる道を歩ける人間と、日陰の道なき道を水溜まりに腰まで汚しながら歩くしかない人間との、あまりの格差。
この不条理を駄文風に描いてみたのです。

投稿: やいっち | 2012/02/21 21:30

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