悴(かじか)む手(後編)
四年前に帰郷した折に、石油ファンヒーターを一台、また一台と買い込んだ。
茶の間と小生の部屋用である(父母の寝室用は以前からある)。
小生の部屋は相変わらず同じだが、石油ファンヒーターがあるだけで、まるで居心地が違う。
← 山下守胤『富山城下神通川船橋図(とやまじょうかじんづうがわふなはし)』 (画像は、「博物館だより 第三十号 平成11年6月16日」より) 「富山藩のお抱え絵師で狩野派の絵師として幕末に活躍した」というが、小生は初耳。
それでも、一昨年までは、寝る前にストーブを消していた。
寝入る(就寝)前は、暖かだった部屋も、やはり一気に冷え込んでしまって、寝床で読書なんて夢の夢だった。
布団(毛布)から手を出すと、悴んで、頁を捲るなんてできない。
ストーブを点けておいて、消灯する直前に消せばいいのだが、ちょっと目を閉じた瞬間に寝入ってしまう習い性があって、そうもいかない。
とうとう、一昨年末からは、ズボン下を穿くようになった。
昔ならモモシキと呼ぶところだが、最近は、パッチとかズボン下とか、いろいろ名称に工夫が見られる。
というのも、一昨年、父が亡くなったのだが、父の遺品にズボン下があったので、せっかくなので小生が使うことにしたのだ。
遺品といっても、父が使うために何枚か買い置きしてあったのだが、大概のものは、穿き潰されたが辛うじて、一枚だけ未使用で残ったのである。
ズボン下を穿く。
となると、もう、手放せない。
外出の際も、家にいる際も、無論、寝る際にも。
寝る際にトレーナーの上下を切るのは変わらないが、その下にズボン下を穿いているので、毛布一枚を引っかぶっていても、寒さへの抵抗力がまるで違う。
毛布から足が出ても、トレーナーの下のモモシキが風の侵入(吹き込み)を防いでくれる。
モモシキを使い始めて、はたと思い出した。
そういえば、ガキのころは、母が買ってくれたモモシキを穿いていたのではなかったか。
ズボンだけじゃ、冬には耐えられないのだ。
が、学生になって、そんな習慣とはおさらばとなった。
友人らが穿かないので、その手前、穿けなかったのか(友人の中に富山より暖かな関東、それも海沿いの人がいた。モモシキなんて縁がない)。
あるいは、モモシキを買う経済力がなかったのかもしれない。
とにかく、学生になって以降は、社会人になっても、冬場だろうと、モモシキは穿かなくなった。
それは、東京だけじゃなく、帰省した富山においてもである。
滞在は、ほんの数日だから、ひたすら我慢であったのだ。
この冬の日に、下はズボンだけで外出していただなんて、もう我ながら信じられない(トランクスは常に穿いていたが)!
一昨年の冬からズボン下を着用し始め、昨年末からは、ヒートテックか何か知らないが、着ていて暖かいという下着を着用するようになった。
これまた、使い始めると、手放せない。文字通り、肌身離さずである。
最初は上下ワンセットだったのが、すぐに買い足した(冬だと、富山じゃ、洗濯しても一日では乾かない。なのでスペアが必要)。
昨年末からは、さらに、石油ファンヒーターを、寝室(今までの南西の角部屋じゃなく、父母の寝室に移った)で使う。
それも、就寝してからも。
つまり、在宅している限り、外出の際を除き、終日、石油ファンヒーターを使っているわけである。
最初は、寝ている間、石油ストーブを使うことに躊躇いがあった。
部屋が酸欠状態になるのではと、心配でならなかったのだ。
でも、幸か不幸か、父母の寝室も、障子戸の障子が破けているし、戸も、きっちり閉まらない。
空気は、常にスースーと通り抜ける、つまり、暖気が逃げていくのだ。
ズボン下に終日の石油ストーブ使用。
→ 17日は、富山には珍しい晴れ。夜半過ぎには、全天が星空となった。夜明けに向けて放射冷却で冷え切ったが、翌18日は、またもや晴れて、日中の気温は九度以上に。三月近い陽気。来週からはまたもや雪の予報も。
こうしてわが身を守っているのだが、体力の衰え、体の温度調整能力の劣化はどうしようもない。
特に感じるのは、手や足先である。
体の表面の暖かさ、特に手先や手の平意の暖かさは人一倍あったはずだが、この頃は手先の冷たさを痛感する。
ちょっと手や指を擦ったくらいでは暖まらない。
こうして年々体の衰えを自覚させられるのだろう。
けれど、一人暮らしの身。
呆気なく衰えるに身を任せるつもりはない。
油断するとすぐに悴む手をさすりつつ、悪足掻きにも似た抵抗を続けていく、そんなつもりでいるのだ。
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コメント
っとごめんよ、国見さん、江戸っ子だね、
おぉよ、股引だね、うれしいね、
しさしぶりに、美空しばりが聴きたいね、
ファンヒーターにしが付かねえや、
おぅ、ちょいとしばちから、しぃ持っちきな。
投稿: 青梗菜 | 2012/01/19 19:40
青梗菜さん
いやー、青梗菜さんにコメントをしていただいたおかげで、「股引」について、新たに記事を書くことが出来ました:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2012/01/post-21fa.html
どうも、長年の東京暮らしで、訛っちまったみたいです。
「し」と「ひ」の発音上の異同の微妙さ、ひしひしと感じました。
投稿: やいっち | 2012/01/20 20:51