『サルガッソーの広い海』あるいはジェイン・エア異聞(後編)
金土日の三連休の前日となる木曜日は、不況の富山(市)も、さすがに忘年会などでだろう、夕方から混雑を極めた。
冷たい雨、そして夜半からは雪模様をも予報されていることもあって、車を使う人も増えていたのだろう。
← 間もなく、こんな風景へと一変するのだろう。(画像は、昨年の一月半ば、新聞配達をしていた頃の一場面。新雪の原を踏み分けて、各家庭のポストへ向かう。「南天の実に血の雫かと訊ねけり」より)
タクシードライバーたる小生、夜になって、無線でお客さんを迎えに行けという指示の連発で、いつ、トイレへ行こう、夜半にはお腹が空いたので、持参したバナナかチーカマを食べたかったのだが、そのゆとりもなかった。
やや郊外のほうへ出たとき、隙を見て、某病院のトイレへ駆け込んだものである。
繁華街である桜木町では、タクシーを呼んでも、なかなか来ず、ある客など、一時間半も待たされたとか。
そんな繁忙を富山で味わうのは、ホントに珍しい。
東京でタクシー業界に飛び込んだ、95年から97年の夏までの頃の忙しさをチラッと思い出したっけ。
天候のほうは、夜半頃に、べたべたの雪が舞い、一時は、シャーベット状の路面になったりもしたが、夜半を過ぎて丑三つ時頃には、雨になってくれた。一時は、晴れ間も。
さて、本題に。
その『ジェイン・エア』異聞だというのだ。
一体、どういう意味なのか。
「『ジェーン・エア』に登場する精神障害者の、前半生を語る異色の小説で、後に映画化された」、そんな作品らしいのである。
→ ヴァージニア・ウルフ/ジーン・リース『灯台へ/サルガッソーの広い海』(鴻巣友季子/小沢 瑞穂訳 池澤夏樹=個人編集 「世界文学全集」Ⅱ-01)
残念ながら、感想文を綴る余裕も能も小生にはない。
ネットで見る限り、「読書感想「サルガッソーの広い海」 - 25時の島」に好感が持てた。
「「サルガッソーの広い海」は、奴隷制廃止後の英領ジャマイカが舞台。
「ジェーン~」で夜中に屋敷を徘徊し、花嫁衣装のヴェールを引き裂き、屋敷に火を放った女、エドワード・ロチェスター卿の最初の妻、バーサがヒロイン」で、「「淫蕩と下賤な行動の末狂ってしまったジャマイカ生まれのクレオールの女」がいかにして狂気に陥ってしまったのかを書き上げている」、そういった性格の作品なのである。
つまり、『ジェイン・エア』を書いたシャーロット・ブロンテには、見えない、彼女には理解不能の世界を描ききった世界なのである。
作者のジーン・リースの出自が故に描けた世界なのだろう。
どんな偉大な作家であろうと、全てを感じ、見通すことなどできない。
自分で気づかない偏見もあろう。
イプセンの『人形の家』(小生の大好きな作品)の先駆けとも見做しうる『ジェイン・エア』の書き手シャーロット・ブロンテにしても、時代の限界もあったかもしれない。
← C・ブロンテ (著)『ジェーン・エア (下)』 (大久保 康雄訳 新潮文庫) (画像は、「Amazon.co.jp」より)
本作を読んだ以上は、近いうちに、改めて『ジェイン・エア』を読み返さないといけない、そんな気持ちにさせられた。
ブロンテには切り捨てられていた世界、本作に描かれた世界を脳裏に浮かべつつ。
但し、作家の力量としては、ジーン・リースは、優れた作家だとは思うが、必ずしも第一級の作家とは思えなかった。
シャーロット・ブロンテ級の力量を持った作家なら、ジーン・リースが描かんとした闇の世界をより深く、より濃密に(且つドラマチックに)小説の世界に実現させただろう。
小生は、ジーン・リースの作品を読みつつ、それは一体、どんな世界なのだろう、なんて妄想を少しだけ逞しくしていたものだった。
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コメント
『サルガッソーの広い海』読まれましたか。
〉但し、作家の力量としては、ジーン・リースは、
〉優れた作家だとは思うが、必ずしも第一級の作家とは
〉思えなかった。
そりゃシャーロット・ブロンテと較べちゃあいけない、と思いますよ。
わたしももう一遍くらい原書読んだほうがいいかな……。
エミリーの『嵐が丘』と並んで、後世に与えた影響が大きい作品ですよね。
投稿: 瀧野信一 | 2011/12/24 02:38
瀧野信一さん
シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』、実を言うと、高校一年の時に読んだきり。
あまりに感動を受けた印象が強く、再読が怖い。
読み返してガッカリしたら悲しいなんて。
エミリーの『嵐が丘』は翻訳も原書も読みましたが、『ジェイン・エア』は訳本だけ。
原初で読むなら、ジョージ・エリオットを挑戦したいです。
投稿: やいっち | 2011/12/25 20:58