イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む(後編)
痘瘡の痕を持つ日本人の多さは、江戸時代などに日本を訪れた外国人の強烈な印象の一つとなっていることは、知られている。
← 金沢 正脩【著】『イザベラ・バード『日本奥地紀行』を歩く』(JTBパブリッシング) 「この書物は、街道歩きの第一人者である著者が、同じく徒歩と自転車で、バードの歩いた道筋を訪問し、多数の写真を撮影して、明治の昔をしのぼうというもの」。小生は未読。いつかこんな旅をしてみたい。「哲学者、翻訳家・中山元の書評ブログ 『イザベラ・バード「日本奥地紀行」を歩く』金沢 正脩(JTBパブリッシング)」参照。
日本人が清潔好きで、それは昔からだという話が近年、日本を称揚するためだろうか、一部で誇らしげに語られたりするが、(一部のエリート層や、江戸の一部は分からないとしても)実際には風呂など論外だったわけで、清潔への思いはあったとしても、現実には(少なくとも庶民は)清潔さとは無縁に近い生活だったのかもしれない。
本書においても、指摘されているのは、(当時の)日本人の好奇心の強さ。
彼女バードを珍物のように、バードの心中などお構いなしに、彼女の周りに集まり、塀の上から、障子の紙を破って、じろじろ眺める。夜中だろうが朝方だろうが。バードが睡眠中だろうが。
彼女、プライバシーはない! と随所で嘆いている。
この好奇心が、日本人の探究心の強さに繋がった ? !
本書を読んで感じるのは、今では失われた日本人の人間味・人情、そしてなんといっても、風景である。
大雨になるたびに決壊する川、崩れ去る崖、流される橋、消え去ってしまう道。
そうした危険と背中合わせの山や森の風景は、だからこそ、美しかったのかもしれない。
本書の眼目は、日本人の暮らしぶりもさることながら、やはり、エゾ(彼女が訪れた頃には既に北海道という名称に変わっていたが)における先住民たるアイヌ人の暮らしぶりである。
アイヌの人々と内地から渡ってきた日本人との共存ぶりが観察されていて実に興味深い。
興味深いといえば、アイヌの人々の中に伝わる、義経伝説。
義経にはよくしてもらったという言い伝えがあって、内地の人には分け入ることの出来ない奥地に義経らを祀る神社(義経神社?)があったりする。
義経伝説は、アイヌの方から始まったのか。
それとも、内地の人がアイヌ人を懐柔するため(稼動か分からないが)、持ち込まれた伝説なのか。
とにかく、バードは、内地においてと同様、アイヌの人々とも同じ住居で、文字通りヒザ突き合わせて語り合い、住み暮らした。
→ 北海道旅行で出会った、アイヌ民族の男性。本書の中の挿画。 (画像は、「イザベラ・バード - Wikipedia」より)
人々の風俗をこの目で見てやろうという精神は、いくら、彼女が言うように、「私はそれから奥地や蝦夷を1200マイルに渡って旅をしたが、まったく安全でしかも心配もなかった。世界中で日本ほど婦人が危険にも無作法な目にもあわず、まったく安全に旅行できる国はないと信じている」のだとしても、畏敬の念を抱いてしまうばかりである。
幕末から明治維新直後の日本を訪れた外国人は少なからずいる。
観察した文書も相当程度、残されている。
その中で、権力や政府とは無縁の、それゆえ日本の庶民を等身大の目線で観察されているのは、実に貴重だし、やはり稀有な本だと痛感した。
本書を読んで、やや惜しいと思ったのは、彼女は我が富山を訪れていないこと。
「明治11年日本を訪れた彼女は従者一人を連れ、 江戸から日光、鬼怒川から会津、新潟、山形、秋田、青森、北海道へ至る」のだ。
当時、まだ外国人が足跡を残していない土地を自分が歩くのだ、という意図だったから、東北や北海道を巡ったのも道理なのだが、小生としては、彼女が当時の富山の奥地をどう観察したか、その紀行を読みたかった。
参考サイト:
「イザベラバード記念コーナー」
関連拙稿:
「シュピース本から幕末の光景を偲ぶ」
「古き良き…ワーグマンの絵」
「『逝きし世の面影』…」
「陋屋 茅屋 廃屋 古民家」
「小泉八雲『神々の国の首都』を読む」
「岡本綺堂『江戸の思い出』あれこれ」
「島崎藤村『桜の実の熟する時』の周辺」
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