坪内稔典著『俳句のユーモア』をめぐって
坪内稔典著『俳句のユーモア』(講談社選書メチエ)を車中での待機中にて読了した。
仕事が暇だったこともあって、数日(数回の乗務)で読了と相成った。
→ 剪定(とは言い難いが)中の松の木。昔は、もっと恰好がよかったんだが。
既に一昨日の日記で本書に触れているが、次の乗務の際までに一気に読み進んでしまったのである。
著者の坪内稔典氏は、「1944年愛媛県生れ。立命館大学文学部日本文学科卒業。同大大学院文学研究科修士過程修了。大学在学中から全国学生俳句連盟に加盟、流行語などを取り入れた新しいタイプの俳句を確立。“ニューウェーブ俳句”“広告コピー風”等と言われ注目を集める」といった方。
あるいは、「86年、尼崎市民芸術奨励賞受賞。日本近代文学会会員、俳文学会会員、日本文芸家協会会員。専攻は近代日本文学、俳句俳諧。研究テーマは正岡子規、夏目漱石」とも。
より詳しくは、「俳句の新しい流れ-五七五は意外に簡単 坪内 稔典 氏」なる頁を覗いてもらいたい。
← 坪内稔典著『俳句のユーモア』(講談社選書メチエ) 先日の本ブログ日記において、「季語随筆」を綴る際、坪内稔典氏には(無論、ネット上で勝手に)随分とお世話になったこと、などを書いた。
「俳句の新しい流れ-五七五は意外に簡単 坪内 稔典 氏」における、坪内氏の以下の発言が本書において語られている内容の要旨を示している:
まず言えるのは、言葉の取合せの楽しさです。例えば「古池」と「蛙」を取り合せて「古池や蛙飛び込む水の音」という名句ができる、甘納豆と季節を組み合せると「三月の甘納豆のうふふふふ」なんていう不思議なものができる(笑)。意外な取合せから偶然に思いがけない名句ができる可能性があるわけです。俳句が昔から根強く支持されている理由は、まずその取合せの楽しさではないかと思います。
それが最大の魅力だと思います。しかも、五七五を使うことで、日常会話ではない虚構の世界に入っていくことができるわけです。普段の生活の中で使えないような言葉や、言えないようなことでも、そういう世界の中では自由にものを言うことができる。その気持ち良さもあります。
それからもう一つ、俳句というのは、他の文芸と違って、句会が必ずあります。自分のつくった句を、署名なしで句会の仲間に読んでもらい、お互いに批評し合うわけです。だからすぐに反応が返ってくる、そして意外にも、仲間が自分が思っていたよりすごくいい読み方、批評をしてくれたりすることもある。その楽しみもあると思います。
→ 松川沿いの「松川べり彫刻公園」にて。松川べりの散策路(桜の並木道)には、「県内在住、あるいは県出身の彫刻家の作品28点が設置され」ている。追々、いくつか紹介していきたい。作家名も調べないと。
せっかくなので、本書から、坪内稔典氏の句を幾つか転記する。
同氏の最高傑作なのか、それとも、本書のテーマに沿った句だから、参考までに引いたのかは、問わないでおく:
多分だが磯巾着は義理堅い三月の甘納豆のうふふふふ
河馬を呼ぶ十一月の甘納豆
春昼の紀文のちくわ穴ひとつ
牡丹雪ぼくもあなたもかりんとう
君はいま大粒の雹(ひょう)、君を抱く
わいわいもぶらぶらも来る冬の波止
横浜の十一月のラクダかな
炎天を来てかたばみの花へまず
白南風(しらばえ)や午前にキスをちょっとして
夢違観音までの油照り
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コメント
今月の初め、薩摩松島と呼ばれる景勝地へ行ってきました。
芸がないですが、次の一句を。
松島やああ松島や松島や 芭蕉
一度目の松島よりも二番目の松島が、そして、三番目の松島のほうが異化された〈おかしみ〉をもっていますね。
唐突ですが、やいっちさんは桑原武夫の「第二芸術論」をどう思いますか?
投稿: 瀧野信一 | 2011/11/12 21:42
瀧野信一 さん
薩摩松島と呼ばれる景勝地へ行って、どうして松嶋の句なのか、ちょっと分かりませんでした。
でも、長島針尾公園からの天草諸島の眺めを見れば、さもあらん、なのでしょう。
「原風景」を眺め、あるいは旅した感想はどうなのでしょう。
文学の発想の根に繋がる何か、感じましたか?
天草の根より生えし島波か (や)
俳句は、芭蕉はともかく、和歌に比べて、明らかに物象性が高い。
叙述に至らぬ表現。
多くの場合、モノとモノないし、片言の文言との、偶然性に頼った、取り合わせの妙というべき世界。
第二芸術という表現、決め付けはともかく、俳句は、芸術からも文学からさえも、屹立した世界を切り開き、示すものと感じます。
投稿: やいっち | 2011/11/12 22:54
松島の句は失礼しました。あまりに有名な句なので。
ああいう景色は、わたしの文学の原風景ではないかと、今回の旅行で思い知らされました。
〉俳句は、芭蕉はともかく、和歌に比べて、明らかに物象性が高い。
〉叙述に至らぬ表現。
〉多くの場合、モノとモノないし、片言の文言との、偶然性に頼った、取り合わせの妙というべき世界。
詩でいうところの、「イマジズム」あたりが連想されますが、イマジズムを説明しろ、となると難しくなるのでやめておきます。
的確な〈俳句〉評だと思います。
投稿: 瀧野信一 | 2011/11/13 06:50
瀧野信一さん
こちらこそ、瀧野信一さんの趣向を理解もせず、勝手なレスをしてしまいました。
原風景との遭遇は、瀧野信一さんの作家業に何かを齎すかもしれないですね。
小生にしても、3年余り前に帰郷した。
それは、ある意味、我が原風景の中に身を置いて、改めて書く意味を問い直している、とも言えそうです。
ただ、小生は、余りに身近に、そして深く、その懐に抱かれていて、道を見失っているようでもあります。
やはり、ふるさと(原風景)は、遠きにありて、滅多に出会えないからこそ、一層、胸の中で存在の重みを増していくのかな、なんて。
俳句の世界の鉱物的な屹立感は、氷の結晶のようなものですね。
投稿: やいっち | 2011/11/14 03:52
またまた、こんばんは。
今日は新聞の休刊日で、なにげなく昨日の新聞を開くと、四コマ・マンガの「ちびまる子ちゃん」が眼に入ってきました。
《友蔵心の俳句》。
読むと、なんとはなしに頬が緩む。
マンガのなかの〈俳句〉というのも、アメリカン・コミックのなかの英詩と比較すると、ずっと日常的に俳句があり、俳句が生活感をもち、その季語も〈英詩〉よりずっと身近だからこそ、《友蔵心の俳句》なんぞがあるのだなあ、と思ったり……。
コミックに出てくる英詩というと、ナーサリー・ライムくらいでしょうか?
投稿: 瀧野信一 | 2011/11/14 19:48
瀧野信一さん
友蔵(さくらともぞう) 心の俳句集
http://matome.naver.jp/odai/2125748519039241062
友蔵の句集は、実感の篭った句ですね。
分かりやすい
俳句とは、呼べないけれど。
川柳 俳句 警句 狂句 標語 コピー 一行詩 モットー……。
まあ、分類など、どうでもいいのでしょうが。
季語にもこだわっていない、そのことも含め、俳句の枠を大きく超えている。
大方の人に馴染みなのは、5・7・5の語調のようです。
自由詩や自由な韻律の俳句も試みられたりしますが、なぜか、5・7・5の語調に敵わない。
日本語となる以前の、縄文時代からの言葉のリズムが根底にあるからなのでしょうか。
古事記などで、最初の歌とされるものも、5・7(7・7)だったりするし。
AIUEOといった(多くの他国の母音や音韻とはまるで違う単純な)母音に秘密があるような気もします。
母音が単純なだけに、小生のように素養がなくても、5・7・5の語調の句はひねれる:
http://blog.livedoor.jp/atky92381/
瀧野信一さん、俳句に挑戦してみてください。
短歌でもいいし。
投稿: やいっち | 2011/11/14 21:44