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2011/10/18

ナボコフの魔術的描写(前編)

 過日より、フィリップ・ボール著の『かたち 自然が創り出す美しいパターン』(林大訳 早川書房)を読み始めている。
「自然のなかの目を見張る造形は数理法則にのっとってひとりでにできる。事物に潜むパターンの数理を、豊富なヴィジュアルを楽しみながら明かす3部作」の第一作である。

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→ 実りの秋。

 原題が『Shapes(かたち)』と素っ気無いが、中身は濃厚である。

 自然の中に現れる模様や形などの造形は、勝手気ままに現出するわけじゃなく、一定の数理法則に則って出来上がる。

 一方、蝶やシマウマなどの模様は、ダーウィンの進化論的には、天敵から身を守るため、などと説明されがちだが、模様には、結構な自由度があって、形を創出する原理そのものの表出の余地がある、などと論じられている。

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← フィリップ・ボール著 『かたち 自然が創り出す美しいパターン』(林大訳 早川書房)

 まだ読み止しなので、感想は別の機会に譲るとして、今日は、本書に一応は関連するが、やや脱線気味の雑文を書く。
 本書を読んで、ナボコフについての意外な事実を知った。
 あるいは事情通なら知られた話なのかもしれないが。
 というか、ナボコフの小説を一冊でも読んだものなら、当然のごとく、知っておかないと恥ずかしい、のかもしれない。

ロリータ』や『アーダ』(Ada)などで有名な、ウラディミール・ナボコフという作家がいる。
 小生などは、本書(の訳書)が出た際には、急いで(半ば、こっそり?)入手して、即座に読み浸ったものである。

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→ 鈴蘭の実も真っ赤に染まっている。

 学生時代、映画『コレクター』などを観た印象がふと、過ぎったのを覚えている。小説とテーマ的にダブっているとは思えないのだが。
 というか、ナボコフは、安直な(?)蝶のコレクター趣味など冷笑するに違いない。

 自分の中にロリコン趣味があるのかどうか分からないが(ないとは言えない…、結構、守備範囲が広いので…)、しかし、書評か何かで本書が出ると知った際には、完璧なストライクゾーンの小説として、高鳴りがちな心を自覚しつつ、せっせと読んだことを覚えている。
 ありがちな、安手の小説ではなく、下心(?)をあっさり跳ね返す、硬質の小説だったという印象が残っている。

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← 監督:ウィリアム・ワイラー「コレクター(1965)」 (画像そして、この映画については、「西澤 晋 の 映画日記 コレクター(1965)」を参照)
 
 この小説家(のはず)のナボコフには、意外な面があると知った。
 あるいは、翻訳された『ロリータ』の解説に、その辺りの解説もあったのかもしれないが、小生は、(関連した説明などがあったとしても)全く読み過ごしている。
 さて、その意外な一面とは?

昆虫学者としてのナボコフ - Living, Loving, Thinking」によると、ナボコフは、「昆虫学者、特に蝶の研究家でもあり、1940年代にはハーヴァード大学比較動物学博物館の鱗翅目(lepidoptera)担当の学藝員(キュレーター)を務め、米国全土で昆虫を採集していた」という経歴を持つ。
 いくつかの新種がナボコフにちなんで名づけられている。

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→ 庭の隅っこ、藪のような樹木の奥にひっそりと育っている小さな木に、小花が。人には目立たずとも、昆虫たちは見逃さないのだろう。

 以下、興味深い記述のある「昆虫学者としてのナボコフ - Living, Loving, Thinking」や「ナボコフの蝶」、さらには「ナボコフと蝶(2)」を読んでもらいたい。

 ただし、本書『かたち 自然が創り出す美しいパターン』において、ナボコフの研究が紹介されているのは、上掲のサイトに載るような類いのものではない。
翅の斑紋の解析を鱗粉レベルに還元しておこなうという」、当時の分類学者では思いつかなかったレベルのものだった。

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