九月の雨のこと(後編)
夏から冬の間に、秋がある、そんなことは分かりきっているが、秋の爽涼を楽しみつつも、またやってくる冬、冬の齎す難儀の数々が思いやられてしまう。
寒気が極端に怖くてならないのだ。
まあ、とにかく九月の雨は、夏の雨とは、まるで降られる身にしてみると、それも、体力の衰えを痛感している身にしてみると、何か心を打つような、心を揺さぶるような、緩やかな斜面を容赦なく転げ落ちていくしかないことを宣告されているような、そんな印象を抱かせてしまうのだ。
「日本において9月中旬から10月上旬にかけて降る長雨のこと」を「秋雨」と呼ぶ。
あるいは、「秋の長雨、秋霖(しゅうりん)、すすき梅雨ともいう」。
九月の雨は、夏の雨とは違って、何か切迫した雰囲気をもこの世界に齎してしまう。
明日も暑かったはずの夏の日とは違って、日を追うごとに熱気が醒めていく、遠ざかっていく、今、熱いはずの何かがさよならを告げてようとしている、そんな心の焦燥を九月の雨は抱かせてしまう。
まだ暑い、まだ熱い、胸の高鳴る今のうちに何かしないといけない。
今だったら未だ間に合うかもしれない、今だったら、雨が上がったら、せめて日中くらいは汗ばむ陽気が待っているやもしれない。
九月の雨は、たとえ束の間の雨であっても、傘がないと辛くてならない。
九月の雨を優しく感じるのは、恋心に苛まれる若い人の特権なような気がする。
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