山本作兵衛の筑豊炭鉱画と五木『青春の門』と(後編)
小生自身が、山本作兵衛の炭鉱画の世界に馴染んだ最初の機会を得たのは、五木寛之作の『浅春の門(筑豊篇)』だった。
← 山本作兵衛の炭鉱画や文章を見て感じるのは、絵の構図の確かさもだが、彼の並外れた記憶力だ。体験や見聞きしたことを絵(映像)のように記憶に止める。彼の描かんとする意思が絵になったのだ。(画像は、「Painting by Sakubei Yamamoto - Communication and Information Sector's Photobank」より)
小生は、同氏の『青春の門』を全巻、揃えたし、無論、読み通した(ただし、大学を卒業と同時に、五木の世界からは離れたので、学生時代、公表されていた第四部まで、だったと、今にして気づいた)。
映画化されたのを見たりもした。
五木寛之にとっては筑豊(炭鉱)の記憶は心象風景のようなものなのか、『青春の門』だけじゃなく、『戒厳令の夜』にも、筑豊炭鉱が舞台(の一部)になっている。
→ 画像は、「Painting by Sakubei Yamamoto - Communication and Information Sector's Photobank」より。
五木の『青春の門』なかでも、第一部が「筑豊篇」なので、福岡、筑豊、炭鉱、というのは、学校の勉強ではなく、五木の小説で小生の中に印象付けられた。
山本作兵衛の炭鉱画についても、芸術性云々じゃなく、内容の生々しさ、リアリティに惹かれていた。
まあ、『青春の門』については、ついでに触れるには、内容が豊かだし、小生なりの思い入れもあるので、別の機会に、改めて採り上げてみたい。
← 画像は、「Painting by Sakubei Yamamoto - Communication and Information Sector's Photobank」より。
「山本作兵衛「王国と闇」 - 千年書房・九州の100冊 - 西日本新聞」の記事が参考になる:
画題を考え出すのに苦労しながら、子ども用のスケッチブックに墨絵を描き始めた。書きためていた「作兵衛ノート」などの記録と、常人離れした記憶を頼りに明治中期までさかのぼり、坑内で働く炭鉱労働者やその生活ぶりを画用紙に落とした。途中から水彩画に転向し、一度筆を下ろすと時間がたつのも忘れ、夜中の2時や3時まで根を詰める。地底での労働風景から、時代ごとの採炭道具、時々の流行や風俗まで、その画題は実に多彩だ。
山本の絵の特徴は、余白をびっしりと埋めた解説文にある。数多くの大学ノートや大小の手帳、日記帳が残っており、炭鉱関係の精密な記録や日々の雑事などが記されている。
(中略)
ヤマから上がった労働者が炭じんの汚れを流す共同混浴風呂。山本自身と思われる少年が、幼い子どもを背負って坑道を歩くうらぶれた姿。炭鉱の実態が凝縮された画集は、山本の名を全国に知らしめた。
→ もろ、五木作品『浅春の門』の世界を彷彿させる。…というより、炭鉱に生きた男たち、女たちの熱気を山本作品から感じ取った面も大きいというべきかもしれない。(画像は、「Painting by Sakubei Yamamoto - Communication and Information Sector's Photobank」より)
参考:
「五木寛之 自作への旅:青春の門(筑豊篇) #1-4」
「五木寛之 自作への旅:青春の門(筑豊篇) #2-4」
「五木寛之 自作への旅:青春の門(筑豊篇) #3-4」
「五木寛之 自作への旅:青春の門(筑豊篇) #4-4」
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コメント
お久振りです。
ご両親の一周忌も終えられたのですね。
ご苦労様でした。私も5月に母を見送りました。
山本作兵衛の描く炭坑夫の赤裸々な姿、そして日記
が世界記憶遺産に登録されたこと、夕張の炭坑町で
育った私はとてもうれしく思っております。
明治から、新興国日本を支えてきた炭坑の実態を
炭坑夫の目線で描いている。とても重要なことです。
筑豊も、夕張も同じだったようです。
刺青した、刃物を振りかざす炭坑夫、過酷な労働、
健康保険も、事故の救済もない時代、「友子」という、
制度があり、そこにはやくざの親分、子分のような
関係で互いに支えあったそうで、炭坑町の気性の荒い、
しかし、仲間を思う優しさが十分描かれているように
思います。
投稿: | 2011/07/29 22:51