蘇る風景そして写真(後編)
何時間、コーチされていただろうか。
数時間だったのか、あるいは、実際のところは、ほんの一時間だったかもしれない。
自分としては、夢中と言うか懸命だったこともあって、気持ち的には数時間が経過していたように感じられた。
気がつくと、もう、宵闇が迫りそうなころあい。
家によってはもう夕餉の時間、あるいは夕食前のお風呂の時間である。
そんな時間になっても、小生はとうとう補助輪なしの自転車に乗れなかった。
十メートルも走ったかどうかというところで、倒れそうになったり、道路脇の生垣に突っ込みそうになったり、砂利道の穴に振られたりして、あっさり足を付いてしまう。
とうとう、お兄さんをはじめ、みんな去ってしまった。
小生は悔しかった。
恥ずかしくもあった。
さびしくもあった。
← サイモン・シャーマ著『風景と記憶』(高山 宏/栂 正行【訳】 河出書房新社) 「原初の森に分け入り、生と死の川をわたり、聖なる山々に登る―人間は風景をどのように見、創りあげてきたか。これまでの歴史学の手法をすべて捨て去り、大いなる小説を読む感動を与える風景論の名著」といった本。6年前の刊行。4年前、図書館で借りて読んで、深い感銘を受けた。このたび、敢えて購入。金曜日から読み始める。再読といっても、所蔵の本となると、新鮮な気持ちで読める。本書を参考に、幾つか関連記事を書いたっけ。
大抵は、何回か、後押しをしてもらい、そのうち、支えているよ、と言いながら、その実、手を離しているのに、ちゃんとペダルを漕いで走れているよ! という状態をめでたく迎える、はずなのである。
なのに、小生は、できない。
つくづく、自分の運動神経のなさに落胆したものであった。
一人、取り残された小生は、自転車を前に呆然としていた。
でも、ただ眺めていても、埒が明かない。
自転車の右側に立ち、ペダルに右足を乗せ、自転車を押し、少しだけ勢いのついたところで、自転車に跨り、サドルに腰掛け、ペダルを漕いで…、という練習。
みんなが去ってから、小生は、教えられる逆のほうで試みてみた。
自転車の左側に立ち、ペダルに左足を乗せ、自転車を押し、後は同じ要領で乗ろうとしてみた。
すると、一遍で成功してしまった。
自転車に跨りサドルに腰掛け、ペダルを漕いでも、それまでと違って、ぜんぜん、ふらつかないで、ずっと走れるではないか!
→ 我が家の庭に育つ謎の植物は多々あるが、これもその一つ。庭のあちこちに点々と生えている。
なーんだ、簡単じゃないか! ってなわけである。
(人に教えられたのとは逆にやったら、すぐに出来る。へそ曲がりな小生の性分が歴然としている。)
嬉しかったのか、自転車の脇に誇らしげに、嬉しそうに微笑んで立つ小生の写真を撮ってもらった。
ビデオはもちろん、カメラだって貴重だった頃のこと、まして小生を写した写真は数少ない中、十歳頃の貴重な記念写真となっている。
小生の、数少ない、ややひねくれた成功体験なのだった。
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コメント
自転車では苦労したおぼえがあります。
すり傷、青あざだらけになって練習しましたよ。
でも、コツをつかめば、転ばず乗れるようになるんですね。
自分でその方法を見つけるなんてスゴッ!
利き足が、左右逆だったってことなんでしょうか??
幼い頃の成功体験は、先々の人生に影響を与えると思います。
発想の転換ができるようになったとか、プラスの面があるんでしょうね。
投稿: 砂希 | 2011/06/18 20:45
砂希さん
自転車、懸命に練習されたんですね。
その熱意に脱帽です。
小生は、怪我しないよう、びくびくもので練習していたような。
自転車もだけど、オートバイの免許(練習)でも、結構、苦労しました。
不器用で、そもそも、自動車学校でバイクに接するまで、イタズラでも一度もバイクに跨ったことがない。
小型免許は苦労の賜物。
その代わり、大型免許は、スムーズに取れました。
自動車学校でも、上手だ、教えるところがないって言われたっけ。
不器用で覚えるのに時間が掛かるけど、覚えると忘れないタイプなのかもしれないです。
投稿: やいっち | 2011/06/19 23:49