コロンブスの赤い月(前編)
営業の車中での待機中、今は、チェット・レイモ著の『夜の魂』(山下知夫訳 工作舎)を読んでいる。
「天文学逍遥」というサブタイトルに示されるように、専門的な事柄の啓蒙書というより、随筆の本、天文学を想像の種にしての、瞑想の書といった本。
← 「月下独酌」劉旦宅(りゅう たんたく)・画 (画像は、「十年一たび覚む 揚州の夢」より)
本書は、「1988年4月」の刊行。
一応は天文学(サイエンス)の書なのに、今も絶版になっていない。
「出版社からの内容紹介」では、「夜空を見つめながら<夜の形>に思いをはせ、星々の色彩の甘い囁きを聴く--サイエンス・コラムニストとしても評価の高い天文・物理学者が綴る薫り高い天文随想録」となっている。それだけ、単なる専門書(の普及書)じゃなく、文章(随筆)として読ませる本だということなのだろう。
こういった本は、気忙しい車中での待機中に読むのではなく、李白を気取っての「月下独酌」は望むべくもないとしても、自宅でじっくり味読したいものなのだが、そうもいかない。
あるサイトのレビューがとても参考になる:
ソローの著書である『森の生活』に深い感銘を受けたと思われる著者は、四季の移り変わりや、動植物の生態を一つの起点としながら、遥か彼方の宇宙へと様々な思いを馳せます。「夜空を観察する技術は、50%が視覚の問題で50%が想像力の問題である」という彼独特の理論に根ざした宇宙の理に関する説明には、静寂と秘密を合わせ持った夜の雰囲気が漂っています。時折、引用される言葉の大半が、同業者である天文・物理学者によるものではなく、リルケやシェリーといった詩人、劇作家のシェイクスピアによるものであるという点も、大きな特徴の一つです。
→ 今日、野暮用があって、晴天だし暖かだったこともあり、自転車を駆って市街地へ。富山城のお堀の傍を通りかかった。桜のピークは先週末で終わっていて、いよいよ葉桜の季節へ。お堀の水面に藻のようなものが浮かんでいて、ちょっと珍しい光景だったので、パチリ。
小生(に限らないだろうが)は、天文学にしろ物理学にしろ(数学はやや別格か)生物学の本にしろ、どうせ読むなら(そんなに数多くの本を読めるわけじゃないし)できるだけ新刊の本から選ぶようにしている。
中学生だった或る日、タイムズ社の天文学の本を読んでいたら、父が本を手にとって、しばらくして言った。
「どうせ読むなら、新しいのを読まないと」
若かったし、父の一言に反発する気持ちがあった。
なので、その本は意地で読み通した。
しかし、父の一言は、脳裏に刻み込まれてしまった。
← チェット・レイモ/著『夜の魂 天文学逍遥』(山下知夫/訳 工作舎)
サイエンス関連の本は、日進月歩の世界だし、そもそも論文でさえ、最新の研究とは言い難い場合がある。
まして、本となると、それも、一般向けの(あるいは少年向けの)本だと、尚のこと、実際に書かれてから、どんなに早くでも半年、一年を経過している。
小生が読んでいたのは翻訳された本だから、現地で刊行されて数年を経ていると思わざるを得ない。
なので、よほどのことがない限り、サイエンス関連の本は(いや、人類学や考古学、古代史の本でさえも)、新刊の本から選ぶような習慣(癖)が身についてしまっている。
しかし、物事には例外がある。
本書は、車中での待機中に読む本ということで、小生の蔵書の中から厳選(?)して車に持ち込んでいる。
書棚から引っ張り出して(その前に書棚の本の背の題名などをしばし眺め渡した上で、やおら手に取るのだが)、パラパラと捲る。
→ いたち川の傍を通りかかったら、ハトたちが桜の木の枝に止まっている光景に遭遇。面白いので撮影しようとしたら、餌でももらえると思ったのか、我輩のほうに飛び掛ってきた。
拾い読みする。
本書は、刊行されて23年を経過している。
天文学(サイエンス)の本なのに、今、敢えて再読するに耐えるのか。
自分なりの鑑識眼(← 大げさ)で、文章がいい。
随筆として読ませる。
それに、(内緒だが)小生の天文学の知識なんて、最新の科学から数周は遅れたものに過ぎない…。
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