『日本滞在日記』…日露交渉の夜明け前
『日本滞在日記』(レザーノフ著、大島幹雄訳、岩波文庫刊)を今日、読了した。
これはロシアの全権大使レザーノフが日本に通商を求めてやってきた際の、交渉ドタバタ劇とも言うべき本である。
← ニコライ・レザーノフ著『日本滞在日記 1804‐1805』(大島幹雄訳、岩波文庫刊) 「本書は長年出版が禁じられ、1994年に初めて公刊された」。
彼、レザーノフが日本にやってきたのは、1804年 9月であり、長崎に長い航海の末到着した。彼は半年余り日本に滞在し、すったもんだの交渉の挙句、通商は拒否されるのだが、この日記は、この間の日本側の役人とレザーノフの長い、先の見えない交渉の舞台を日記の形で綴っている。
先の見えないと、今、記したが、日本側は、交渉に当たった役人を含めて、幕府が通商を拒否していたことは、最初から知っていたのである。つまり、鎖国の国是は動かないし、従って否の答えが当初から明確だったのである。
しかも、もう、滞在も終わりに近づき、幕府から派遣された目付け遠山景普(かげくに=遠山金四郎という通称で芝居でも有名な遠山景元の父)がやってくる頃、役人はレザーノフに「あなたも、最初から知っているものとばかり思っていました」と言うのである。
小生は呆れてしまった。レザーノフもだ。が、したたかな交渉役の立場からは、こうした遣り口は至って当然のことなのだろう。
通商はしないと最終的に告げた頃には、そうした結論が既に出ていることを、長い交渉過程を通じて次第次第に気づかせていくわけである。
本書は長年、出版がロシアでも禁止されていたようだが、1994年になって、ようやく公刊されたものである。日本語訳はこれが初訳で、出版は2000年8月である。従って、ゴローブニンの『日本幽囚記』(井上清訳、岩波文庫1946年刊)のようには有名でないだろう。
レザーノフの長崎来航は、日露両国政府による本格的な交渉の幕開けとなったものであり、日露交渉史の一頁を示すものである。レザーノフと日本側の実質的交渉役となった通詞(通訳者)との遣り取りが生き生きと描かれている。レザーノフは、日本側の煮え切らなさと、逐一の段取りとしきたりに拘る時間の掛かる遣り方に、相当てこずっている。
役人の、ある日は希望をもたせる物言い、ある時は、音沙汰さえない冷たい遇し方に、翻弄さえされている。滞在が9月で冬を越している間に彼、レザーノフは体を壊している。実際、日本を1805年4月に離れて数年もしないうちに彼は病死している。別に日本滞在での不遇だけが原因ではないだろうが。
日本の人々は、特に外国の事情に通じるものや、あるいは通商に積極的なものは、幕府の鎖国を厳守する方針に批判的なのである。表立っては示せないものの、レザーノフの日記を読むと、他の役人がいない間に、こっそり本音を打ち明けたりしている。我々通詞がきっと、いつの日か通商の道を開くから、我々の示すルートで手紙の遣り取りをしようと、持ちかけたりしているのである。
→ 「ロシア使節レザノフ来航絵巻」 「レザノフが通商を求めて長崎に来航したのは1804年」で、「これは当時の様子を伝えるほぼ唯一の絵巻」。「幕府はレザノフを町外れに軟禁し、半年も経って通商拒絶を言い渡しました。憤激したレザノフは部下に蝦夷地襲撃を指示し、北方での紛争が続」いた。
レザーノフの帰国後、ロシアと日本との歴史は暗いものになってしまった。レザーノフ自身は最終的に禁止したのだが、ロシアの北方にある会社が食糧事情に窮し、千島列島の幕府の施設を襲撃したり、それに対する報復手段として、幕府はロシアの船の艦長ゴローブニンを監禁したり、別のロシアの船が長崎港に乱入したり、とにかく緊迫していくのである。
その間にイギリスの船がやってくるという事件もあった。やがてシーボルト事件など、幾つもの事件を経て、ペリーが来航するのは1854年である。
レザーノフは、早すぎた来航だったかもしれないが、通詞らの認識によると、その前にロシアが来るべきチャンスはあったというのである。歴史に「もし」はありえないけれど、しかし、歴史の闇を探ると、可能性が様々にあったと感じるわけである。
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