心を自傷する肉体(後編)
では、心より自分の肉体が確かだと思っていたのか。
まさか! である。肉体ほど訳の分からないモノがあるだろうか。自分って何? この身体? でも、周りの誰にも相手にされない肉体って悲しいだけじゃない? どれほど自傷しても、誰も振り返らない肉体など存在する価値がある? ただ一人の女にも関心を持たれない男にプライドを保つどんな道がある?
← 昨日(8日)、つかの間の晴れ間に恵まれ、自転車で買い物へ。途中、こんな地蔵尊(?)を見かけた。ちゃんと花も水も供えられている。
なのに心が傷む。胸が張り裂けそうになる。気が狂いそうなほどに孤独の刃が自分を苛む。
流れる血が乾ききるほどに、世界が蒼白になるほどに、眩暈がして意識を失ってしまいそうなほどに、吐き気がするほどに、でも吐くものなど何もないのに嘔吐感だけが我が物顔になるだけなのに、それだけの肉体に過ぎないのに、肉体が確実なわけがないのだ。
それでも自分とはこの腕、この顔、この足、この胸の傷なのだ。他に自分が自分でありえる、自分が自分としてこの世にあるという証拠など、他に何もない。
徹底して肉体を追う。肉体の極限を彷徨う。過去の肉体の可能性をさぐる。そうして病の歴史に関する読書に至るわけだし、拷問の歴史に関心を持つわけだし、脳味噌を沸騰させてでも精神の突端としての肉体を知的な形で苛み続けようとするのだ。
世界の中で自分の肉体が見出せない。鏡に映せば、確かに肉体がある。見慣れた顔も映っている。
だけど、町中を歩けば、それは吹きすぎる風より呆気ない存在。誰にも相手にされない存在。風でさえ、誰彼の髪を時には嬲り、あるいは瞬きだってさせることがあるというのに、自分は相手の瞳に瞬時たりとも映らない。自分って何。風以下の存在?
→ 中のほうを拡大。お地蔵さんが包まれている? どんないきさつでこういう像が作られたのか、気になってならない…。
自分を出せない人間。胸が傷むのに、痛い! という悲鳴さえ人前では上げられない人間。そんな奴は結果的には自分がない人間を意味する。現実の日常の中で影の薄い存在ということは、夢想の中でだけ過剰に妄念が膨らんでいるだけの存在ということは、つまりは、この世に存在しているとは到底、言えない存在に過ぎない。存在の欠如に過ぎないのだ。
にもかかわらず確かなものがある。それは胸の痛み。張り裂けそうな思い。空漠たる世界。蒼白なる眺め。狂気が友の真っ赤な心の焔。
若い頃の偏屈で一途な倫理感というものは、一切の妥協を許さないものがある。
思いが巡り始めると、際限がない。ローリングストーンとなってしまう。黴さえも生えないほどに心が乾ききってしまう。触れるものとは、摩擦熱を生じるだけ。だから周りが遠ざかる。遠ざかると、尚更、転げ落ちる勢いが増し、すると、周囲との軋轢の熱が一層高まる、そんな悪循環に陥ってしまうのである。
そこから抜け出す方法などあるのだろうか。自分の場合はどうだったろう。
ガキの頃、悪夢の日々に疲れ果てたように、つまりは精も根も尽き果てて、魂の抜け殻になるしかなかったのだろうか。老いを待つとは、癒しの日々を待つということなのか。おかしい。何かが間違っている。
← 内庭の山茶花。雪融けの季節を待ちわびたように、花が一気に咲き誇る。昨日(8日)の光景。けれど、今日の午後から氷雨、霙、そして夕刻を前に雪に。今晩は積もりそうである。
現実の世界で生きるには、そんな状態のままでいることは許されない。短から ぬサラリーマン生活の果てに、結局は、自分なりに現実との接触の方法を探るしかなくなってしまうのだった。
が、それはまた、別の話となるわけである。
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