子供と魔法の世界(前編)
道を歩くと、子供を連れた親御さんと幾度となく擦れ違った。やけに親子連れに行き会うなと、思ったら、今日は、他に用件があったので、昼間の外出となっていたからなのだった。
→ 裏庭の隅っこにあった高さ1メートル余りの梅の木を表の庭に移植した。すぐ目の前に車道がある。そう、人の目に触れる。日向でもある。一応、肥料は与えたし、水もたっぷり注いだ。育ってくれるだろうか。
そんな中、外出の帰り、2歳か3歳の子供を抱いている若いお母さんを見かけた。何処となく変な印象を感じてしまった。実は、そのお母さんは、子供を斜めにして、しかも、子供のお腹に手をあてがっていた。ちょっと見かけない恰好である。
子供は、気のせいか、ちょっと苦しげな表情をしている。
あまり長くお腹を圧迫していたら、そのうち、呼吸困難になるか、あるいは内臓が癇癪を起こすに違いない。
尤も、その前に子供のことだから、苦しくて泣き出すだろうが。
茶髪の奥さんは、もう片方の手に籠を下げていて、子供の姿勢を直す余裕がない。急いでもいるらしく、構っている場合じゃないという、やや切迫した様子も見受けられる。
さて、子供だが、子供は、一体、その時、何を感じているのだろう。子供の視線から見たらお母さんも含め、この世界というのは、どのように見えるのだろう、と、ふと思った。
ともかく訳も分からずに奇妙な恰好で抱かれて苦しいが、でも、これが与えられた状況なんだし、我慢できるまではとにかくあのままじっとしているよりない。
← 梅の木。もとは隣家のブロック塀のすぐ外にある裏庭にあった。日陰だし、ジメジメした水はけの悪い場所。それでも、立派に育っていて、蕾が一杯、成っている。今にも咲きそう。瓦やコンクリート片、ガラス瓶、毛糸などの瓦礫交じりの土で、根が思いっきり入り組んでいて、引っこ抜くのに二時間を要した。
物心付くか付かないかの子供というのは、身長がどれほどあるのか知れないが、いずれにしろ、大人は遥かに見上げる存在である。親も小父さんや小母さんも、家に来るお客さんも、店で街で見かける大人達も、みんな巨人だ。
子供の視線は、普通、当然のごとく、水平に向かっている。等身大の世界を見る。仮に目の高さが1メートルだとしたら、その1メートルの地平が、彼らにとっての与えられた世界であろう。
そこに大人たちが介入してくる。
まるで2階からいきなり、低い世界である彼らの未熟な、だからこそ豊かな世界に飛び込んでくるのである。神の手とまではいかなくても、彼らなりの物語的継続性など頓着しない大人の都合が、子供には皺だらけの巨大な、クレーンみたいな手という形で突然、姿を現すのだ。
あるいは、大人に不意に抱きかかえられたり、まして肩に担がれたりしたら、それは一気に世界を遥か遠くまで展望するかのような、不思議な開示感を抱くに違いない。身長が10センチと言わず数センチでも違うと、世界の見え方が違ってくることは、履物の底の高さが普段と違った厚いものを履くと、実感できる。
→ 畑にゴーヤと枝豆の種を蒔いた。昨秋、雪が降る前に畑を整地しておいたが、雪の季節を越えて、そのままの形で残っていた。ゴーヤを二列、枝豆を二列。収穫が目的、というより、雑草に畑の栄養分を奪われたくないのだ!…でも、やっぱり育って欲しい。畑にはあと二列、空きがある。何か植えたいな。
視線の高さが違うと同時に、視線の向きが変わるからでもあろう。
同じものを見るにしても、その対象の見える角度や相貌が若干ずつであれ、違ってしまう。そのことの齎す心的効果は、新鮮なものがあるはずだ。
それが、肩に担がれることで、いきなり2メートルほどの高さに舞い上がるのだ。
子供の目の前には、無数の奇妙な物体や事象が鎮座したり垣間見えたりしている。あるいは親の(大人たちの)声も、遥か頭上から、天からの神の戒めの声、子供の生活世界の論理にはまるで脈絡のない、命令的指示として齎される。
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