立川昭二から翁草へ(前編)
10月10日付け朝日新聞夕刊に、立川昭二氏へのインタビュー記事が載っていた(聞き手は宮代栄一氏)。
← 「オキナグサ(翁草、学名: Pulsatilla cernua )」 (画像は、「オキナグサ - Wikipedia」より)
その中で、立川氏はいま、江戸時代中期の文人だった神沢杜口(かんざわとこう)に関心があると述べている。京都町奉行所の与力だったが、40代半ばで現役を退き、『翁草』という200巻の見聞録を残したという。森鴎外はこの翁草から「高瀬舟」や「興津弥五衛門の遺書」などの題材を得たとか。
彼、神沢は学者でもなく宗教家でもない、ただの勤め人。普通の人だった。その彼が日本人の心性の一番基層にあるものをきちんと持っていた、翁草を読むと、それが見えてくる」と立川氏は語っている。
さらに、「日本人が本来もっていたであろう、生き方・死に方の本質が彼の中にあると思う」とも立川氏は語っている。
立川昭二氏は、病気の文化史を研究されてきたが、近年、老いをいかに生きるかに関心を持たれている:
http://www.nhk.or.jp/ningenkoza/200101/wed.html
さて、小生は立川氏が関心を持たれている『翁草』に興味を抱いた。
早速、手元の「広辞苑」で「おきなぐさ」を引いてみる。すると、二つの項目が出てきた。
一つは、植物の「翁草」であり、もう一つは、目当ての随筆の「翁草」である。 まず、植物の「翁草」についての説明を引用しておこう:
「翁草」(1)キンポウゲ科の多年草。山野の乾燥した草地に生え、全体が白色 の長毛で覆われるのでこの名がある。葉は羽状。春先、庵赤紫色の六花弁を開 き、のち多数の果実の集まりが長毛(花柱の変形)を風になびかせる。根を乾 燥したものは生薬の白頭翁で、消炎・止血剤とする。ネコグサ。
→ 我が家の庭の隅っこに、なぜか育ち始め、ついには花も咲くようになった、小さな梅の木。昨年、初めて存在に気がついたのだが、順調に育っているようである。
事典の説明だけでは寂しいので、ネットの強みを生かして、画像などを:
「幻の山野草・翁草(日本翁草)を育ててみませんか」
どこかで見たことがあるような、でも、植物にも疎い小生のこと、タンポポのイメージとダブっているような気もする。地味な感じだけど、何かじっと見ていると胸が温まるような素朴な味わいが感じられる。
ついで、随筆の「翁草」の説明である:
「翁草」 随筆。神沢杜口(1710-1795)著。はじめの100巻は1772年(安永1) 成立。鎌倉ー江戸時代の伝説・奇事・異聞を諸書から抜書きし、著者の見聞を 記録。
これでは、説明としてあんまりである。ただ、大著を書いたって事、そして当時としては異例なほど神沢杜口は長生きだったってことは分かる。
そこでネットで検索。すると、次のようなサイトをヒットした:
「江戸中期の随筆集「翁草」考」(すでに削除されている)
このサイトの記述を読むと、「『日本随筆大成』(吉川弘文館)の中の第十六T 巻から第二十四巻までの六冊(一冊約五百頁余B5)に収められてい」ることが分かる(この中の「第十六T巻」の「T」の意味が分からない)。
なかでも、かの永井荷風が(『断腸亭日乗』の中の記述によると)其蜩(きちょう)の『翁草』に畏怖し慙愧の念を覚えたことが分かって興味深い。其蜩(きちょう)というのは、元々俳人の神沢杜口の俳人としての号で、其蜩(きちょう)とも読めるが、其蜩(そのひぐらし・その日暮らし)を含意していて、遊び心のタップリある人だということも分かる。
遊び心がないと、これだけの偉業は達成できないだろうが。
(「立川昭二から翁草へ(後編)」へ続く。)
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