立川昭二から翁草へ(後編)
(本稿は、「立川昭二から翁草へ(前編)」からの続き。)
ところで、この「江戸中期の随筆集「翁草」考」のトップページに飛んでみて、ちょっとビックリした。
このサイトは、元来が、幻の野草オキナグサを愛好する方のサイトであり、オキナグサに関連するあらゆる事項を網羅せんとしたサイトだったと知れたのだ。
← 立川昭二 著『足るを知る生き方 神沢杜口「翁草」に学ぶ』(講談社) 「知足は不足の中に在り。人生後半をどう生きるか!老いの生き方を説く人生の達人・神沢杜口」。ちなみに、「杜口とは口をふさぐの意」であるとか。 「『足るを知る生き方』神沢杜口という人」が参考になるかも知れない。
どんなものにも愛好する方はいるのだが、さて、オキナグサに魅了されるとは、一体、オキナグサの何処にそんな魅力があるのだろうか。
ま、そんなことはいいね。黙ってオキナグサを眺めていると、なんだか野原で寝転がって青い空を流れ行く白い雲を眺めているような、そんなのーんびりした気分になる。
妙に華やかな植物ではないので、別に気合を入れて愛でる必要もない。気が向いたら眺め、飽いたら空でも何処でも眺めれば、という余裕の雰囲気もタップリ漂っている。
このサイトの中に数多く例示されているエッセイで、例えば、「迎春花(インチュンホワ)」というエッセイの頁も面白い:
どうやら中国大陸で闘い、引き上げた方々には忘れられない植物のようだ。
では、この翁草は、日本では咲いていないのか。
上掲の、「幻の山野草・翁草(日本翁草)を育ててみませんか」というサイトをもう一度、覗いてみよう。
すると、「(一)日本翁草とは」というページに、以下のような記述を見出す:
日本翁草(山野草・キンポウゲ科の多年草)は、環境庁発行の『絶滅植物危 惧図鑑(レッドデータブック)』において絶滅危惧植物Ⅱ類に指定されており ます。同図鑑の説明に、最近では目にすることも難しく、「幻の山野草」にな りつつあると記されているように、絶滅の危機に晒されている、貴重・希少種 の山野草です。
そうなのか。それじゃ、小生が今まで気付いていないとしても、それは単に小生がウッカリ者だからというせいばかりじゃないのかもしれない。
ちなみに、同じページに、「尚、この時の様子が、高齢者(翁)の白髪のように見えることから、「翁草」と命名されたとのことです」という記述がある。
実は、最初にこの植物の画像を見たとき、頭に僅かに生え残り風に寂しく揺れる白髪をつい連想したのだが、そんな連想をする輩(やから)は小生だけではないのだと、安堵したものである(ただし、<翁>をまで思い浮かべる想像力は小生にはなかった!)。
さらに、「(二)日本翁草の苗、育成者の想い」というページを覗くと、オキナグサへ託す思いを知ることができた:
日本翁草が絶滅の危機に瀕しているとの悲しい事実を知ったとき、当時幸いに も我が家の庭にずっと以前より生き長らえていた数株の翁草がありましたので、 それを基にして増殖を計り、全国各地に復活することはできないか、と考えま した。即ち、日本全国のご家庭の庭やベランダで、また野や山で、身近にいつ でも目に映られる日の来ることを夢見るようになりました。
そうした地道な取り組みをされている人がいるというだけでも、なんとなく嬉しくなってくる。意味があるとかないとかではなく、とにかくそうしたいからやってみるってことが大切なのだろう。
神沢杜口が『翁草』を著しつつあった頃は、きっと翁草はありふれた野草だったのだろう。
「草刈などの維持管理がなされくなり荒廃したこと、開発が進んだこと、それに山野草としての栽培を目的とした採取により、各地で激減している」という。
恐らくは、昔の人は、いつかこのように絶滅が危惧されるとは夢にも思わなかったに違いない。
誰でもが目にしている、だけど大概の人は風景の中の、せいぜい背景を彩る雑草程度にしか見なしていなかっただろう、有り触れすぎていた雑草。
神沢杜口は、先述したように京都町奉行所の与力を40代半ばで現役し、この仕事に専念したという。
翁草という野草に自らの思いを投影して、場合によっては誰にも顧みられることもないかもしれない仕事に残りの生涯を捧げたのだ。
「杜口は一度火事(天明8年=1788年の京都の大火)で「翁草」の大半を焼失するが、79歳にして再び書き起こし3年後に完成(寛政3年)する」という。
小生に、そんな仕事があるのだろうか。華やかである必要はないのだが、それでも、夢を傾ける仕事があればいい、それだけでも素晴らしいことなのだ…、そんな思いを痛く感じさせてくれたネット検索の旅だった。
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