宮子あずさ著『看護婦だからできること』を読んで
先週末から今週に掛けて、主に車中での休憩の折に、宮子あずさ氏著の『看護婦だからできること』(集英社文庫刊)を読んだ。
先週、何か車中で読める本はないかと近くの書店で物色していたところ、ふと、このタイトルが目に飛び込んだのである。
→ 数日前、今の仕事に携わるに際し、適正診断を受ける必要があって、某会館へ。会館の二階でつかの間の晴れ間を愛でることができた。
手にして拾い読みをしてみた。文章が生き生きしている。長年の直感で、これなら外れにはならないだろうと思っていた。
期待に違わなかった。看護婦稼業の裏表を実にあっけらかんといった感じで描いていて、これは読後感くらいは何処かに残しておこうと敢えて、ペンを執った次第である。
小生は7年前と8年前に入院している。(中略)手術の当日と翌日くらいはベッドに寝たきりになったが、それ以外の日々は動くことができていた。
けれど、手術後の数日の間、包帯が顔に掛かっていて、洗髪ができず、不快な思いをしていたのである。
ところが、見ると病室の人が看護婦さんに体を拭いてもらったり、髪を洗ってもらっているではないか。
小生も恐る恐る看護婦さんに髪を洗って欲しいんだけど、とお願いをしてみた。
看護婦さんは「ええ、いいですよ」と気軽に応じてくれた。
洗髪の後の清々しさは言うまでもない。
あるいはシーツの交換や夜の見回り、点滴の液の交換etc.と、甲斐甲斐しく立ち働く姿は、なまじっか体自体は元気で、手術後の数日以外は歩き回れる人間には、半ば刑務所みたいに病院を感じかねない小生には、眩しいばかりだった。
ところで、実は、そうした体験(看護婦さんによる洗髪)は小生には軽いカルチャーショックだったのである。忙しく駆け回る看護婦さんにそんな煩瑣な願い事をしていいはずはないと思い込んでいたのだ。
無論、単に小生の無知・無理解に過ぎないのであって、人によってはそんなことは常識に類するのかもしれない。
が、看護婦さんにしてみれば、そんなことは日常茶飯事に過ぎない、彼女等の業務の一部に過ぎないのだ。
それでいながら、実は、あれはあの病院独自の業務形態なのか、サービスの一貫に他ならないのであって、一般的な看護婦業の在り方かどうかは確信が持てないでいた。
そうした疑問の数々が上記の書を読むことで一掃された。
看護婦さんたちは、洗髪どころではなく、頭から爪の先まで磨いてくれるし、尾篭な話かもしれないが、うんこの世話まで(自分で排泄できない場合です
よ!)やっているのだ。
(下のことは、切実な問題なのだ。)
本書では、決して、それが話の本筋ではないのだが、しかし、「うんこの臭いは人生の匂い」という件(くだり)は圧巻であった。
また、そうした具体的な目に見えるケアだけではなく、患者さんの相談相手になったり、更には当然かもしれないが、患者の微妙な容態の変化を日頃の細心の観察で読み取り、適切な対処を施すわけである。
ところで、今、結婚や「燃え尽き症候群」などによって看護婦を辞めていく事例が後を絶たないという。
が、一方では介護の時代でもある。
看護と介護。似て非なるもの。
けれど、どこか、根底においては通い合うものがありそうな気がする。
既に(若くして)辞めていった看護婦さんたちが多いということは、態勢さえ整えば、介護に携わりうる潜在的な人材は、相当にあるということだ(勿論、看護婦さんに復帰しえる人材が多いということでもある)。
← 宮子あずさ著『看護婦だからできること』(集英社文庫) インターネットの時代となって、逆に人間的な接触、サービスの大切さが見直されてきたように感じる。小生の携わるタクシー稼業も、いまやサービス業、接客業なのである。
これはやや一般論になるけれど、小生は、人のケアに直接関わる人材は、ある意味でお医者さんのように技術でしか往々にして患者には関われない人より、患者には密接な関わりの対象であるし、それ以上に端的に切実な救いや癒しの対象でもあると思う。
別に、ここで看護婦の待遇を改善しろとか述べるつもりはない。それはまた別次元の問題だろう。
そうではなく、時代はインターネットが広まり、ITが持て囃される時代である。人との連絡も電子メールで、というケースが増えている。情報も辞書や事典や本で調べるより、インターネットで検索したほうが遥かに早いし、しかも最新のデータが得られる。
本だって電子出版の時代に移行しつつある。
人に肉体や精神についての細密な情報も、CTスキャンなど、デジタル情報化されつつある。遺伝子についても解析が進んでいる。
にもかかわらず、人は人との直接の関わりを希求していると、小生は思う。
介護と看護、更には風俗(この最後の項目に難色を示す人は多いだろう)。人は、デジタル社会だからこそ、尚更に人の手の温もりを欲しているのだ。
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