蝋燭の焔に会いに行く
漆黒の闇の底を流れる深い河。そこに蛍の火のような灯りが舞い浮かぶ。風前の灯火。でも、俺には命の輝きなのだ。あと何日、こんな眩い煌きを堪能することができるだろうか。
→ つい先日、隣家のブロック塀の上に、恐らくは番(つがい)と思われる二羽を見かけた。そのすぐ近くの木の枝に、昨日、一羽だけを見かけた。相方はどこにいるのか。餌を探しに行った? 喧嘩別れした? それとも、相棒は巣の中に篭っていて、この一羽がどこかにいい餌場はないかと見渡しているのだろうか? さすがに今日は寒風が吹き渡っていて、鳥たちの姿を見ることは叶わなかった。
そう、じっと、焔の燃える様を眺め、蝋燭の燃え尽きていくのを看取る。
それは、まるで自分の命が静謐なる闇の中で密やかに滾っているようでもある。熱く静かに、静かに熱く、命は燃え、息が弾む。メビウスの輪のある面に沿って指をそっと滑らせていく、付かず離れずに。
← いよいよ明日から新しい仕事が始まるということで、報告を兼ねて墓参。報告する相手は今は亡き両親しかいない。耳を傾けてくれているのやら。今更、しおらしくしてもダメだって、そっぽを向いている?
いつしかまるで違う世界にいる自分に気が付く。見慣れないはずの、初めての世界。なのに慕わしく懐かしい世界。読書という沈黙の営みを通じて、人は自分の世界を広げ深めていくのだろう。何も殊更に声を上げる必要などないのだ。
→ 蝋燭や花、水などは用意したけど、線香を忘れた。風が冷たく吹いていて、蝋燭の焔が揺れてやまない。でも、三十分以上もお墓の前で祈ったり、焔の様子を眺めたりしていたけど、消えることはなかった。蝋燭って、結構、しぶといものだと分かった。命ってやつも、せめてそれほどにタフであったらいいと思う。
気が付けば蝋燭の火も落ちている。命を燃やし尽くして、無様な姿を晒している。けれど、冷たい闇の海の底にあって、己の涸れた心に真珠にも似た小さな命が生まれていることに気付く。蝋燭の焔の生まれ変わり?
← 風に吹き千切られそうになりながらも、蝋燭の焔は消えない。時に、文字通り風前の灯状態になり、線香花火の小さな火の玉ほどになりながらも、しぶとく燃え続ける。マッチ棒の焔も好きだが、蝋燭の焔も好きである。「蝋燭の焔に浮かぶもの」など、焔に纏わる随想をどれほど書いてきたことか。、その中でもこの頁は、総集編とも言える。
私は風に吹き消された蝋燭の焔。生きる重圧に押し潰された心のゆがみ。この世に芽吹くことの叶わなかった命。ひずんでしまった心。蹂躙されて土に顔を埋めて血の涙を流す命の欠片。そう、そうした一切さえもが神の眼差しの向こうに鮮烈に蠢いている。
蛆や虱の犇く肥溜めの中に漂う悲しみと醜さ。その悲しみも醜ささえも、分け隔ての無い神には美しいのだろう。
→ 仏壇の花も生け変えて、お祈り。
はるかに遠いあの弱々しげな蝋燭の焔に会いに行くのだ。蛍の光にも似た命の、末期のささやかな慄きに触れに行くのだ。そのために生きているような、そんな気さえしてくる。そう感じつつ、夢中になって、今にも絶え入りそうな、朧な光の揺らめきに向かっていった。
[画像に付した日記文以外の本文は、「蝋燭の焔に浮かぶもの」からの抜粋です。]
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