綺堂「半七」は旅の友のはずでした
過日、図書館へ。
CDの返却と借り出し。
司書の方がCDを用意している間、そのカウンターで何気なしに、返却された本の数々を眺めたら、半七の名が。岡本綺堂の本!
手にとって見ると、一昨年の刊行。
→ 玄関ホールに生け花。大きな花瓶だけに、花も豪華に、立春らしく? 昨日・今日(四日)と晴れ間に恵まれ、屋根の雪も結構、融けてくれた。根雪も40センチほどに減ったような気がする。
綺堂の半七捕り物帖の、北村薫と宮部みゆきとの当代の人気作家二人の選による傑作集とある。
近々、京都へ術後検査ツアーの予定もある(結果的にはキャンセルした…就活に失敗して、病院へ行く余裕がなくなった)。
その往復の列車中で読むに最適の、旅の友(のはず)だ(った)。
岡本綺堂(オカモトキドウ 1872~1939年)は、東京芝高輪生まれという。
小生が81年から90年の春先までを過ごした高輪に縁のある作家だからというわけじゃなく、小生は岡本綺堂の「半七捕物帳」のファンである。
ただし、悲しいことに、情けないことに俄かファン。
9年ほど前に岡本綺堂著の『随筆綺堂 江戸の思い出』(2002 河出文庫)を読んだことがあるが(感想も書いたが)、綺堂の「半七捕物帳」をまとめて読んだのは、ほんの一昨年のこと。
高輪に9年余りも住んでいながら(あるいは高輪とはJRを挟んだ芝浦(海岸)にある会社とは13年も縁を持っていながら)、住んでいた頃は地元である高輪や芝、三田、白金、界隈のことはほとんど知らずじまいだった。
高輪を離れて初めて、十年ほど前から島崎藤村など、縁のある作家をボチボチ読み返したりした程度なのである。
綺堂のことは、たぶん、港区に在住当時はまだ全く視野の外だった。
実に勿体ないことだと、彼の作品を読みながら、つくづくと思い知った。
文学に純文系とエンタ系があるのかどうか分からないが、自分については、やや純文系に偏していたような気がする。
読書においてもかなりの偏食なのである。
綺堂の「半七捕物帳」を読んで味わっているのは、和風シャーロック・ホームズ的人間観察、推理力、人間力ってこともあるし、怪談風な味わいもあり、その両者が相俟っての独特な世界にある。
なんといっても、どこか落語か講談、浪曲、漫談風な、大人の余裕を感じさせる、ゆったりした、巧みな語り口が魅力。
江戸や明治の物語、あるいは中国の物語・漢詩などをたっぷり滋養として小説世界の土壌に染み込んでいる。
← 岡本 綺堂【著】『読んで、「半七」!―半七捕物帳傑作選〈1〉』(北村 薫/宮部 みゆき【編】 ちくま文庫) 捕物帳の元祖としていまでも高い人気を持つ「半七捕物帳」。そんな「半七」に目がない北村薫と宮部みゆきの二人が選んだ傑作選その〈1〉。
それでいて、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズなど西欧の文物への目配りも素養として己のものとしている。
小生は、綺堂の生前にはまだ残っていただろう(あるいは、綺堂が江戸や明治の人間に直に見聞きしただろう。実際、「綺堂は新聞社時代に榎本武揚や勝海舟も訪問して」いる)江戸や明治時代の江戸などの情緒を嗅ぎ取るのも楽しみである。
綺堂だからこそ醸し出しえた虚構の江戸情緒なのかもしれないが、さもありなんと思わせてくれる以上は、楽しませてもらうばかりである。
まあ、そんなことは誰しも感じること。
本書は傑作選なのだが、小生が一昨年読んだ岡本綺堂著『半七捕物帳(全六巻)』(光文社時代小説文庫)は、小生の眼力が弱いのか、どの作品も楽しんで読めた。
小生にどれか十篇でも選べと言われても、迷った挙句、選びきれなくて降参するに違いない。
本書の最後に編者である北村薫と宮部みゆきの二人による「解説対談」が載っている。
さすが作家ならではの楽しみ方を示していて、その対談もまた楽しい。
その対談の中で、綺堂訳の『世界怪談名作集』のことが話題に上っている。
都筑(道夫?)先生が、綺堂訳の『世界怪談名作集』を読むと、ぞぉーっとした、でも、新訳で出たのを読んだら全く怖くない。翻訳なんだから、筋は同じはず。でも、そこが綺堂訳だと、怪談の語り口のうまさで全く違うものになる、と。
← 岡本 綺堂 編訳『世界怪談名作集 上』(河出文庫)
小生、この二人の語り口に乗せられてしまっていて、綺堂訳の『世界怪談名作集』を読みたくてたまらなくなった!
(ちなみに、ネットで一部は読める:「序/目次 岡本綺堂編訳 世界怪談名作集」「ディッケンズ Charles Dickens 岡本綺堂訳 世界怪談名作集 信号手」「瞿宗吉 岡本綺堂訳 世界怪談名作集 牡丹燈記」などなど。でも、小生は、いつか本を借り出して読むつもり。)
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