サイモン・シャーマ 著『レンブラントの目』の周辺(後編)
余談に満ちている(かのようでいて、実は本流に深く関わるエピソードたっぷりの)大河小説のような本書は(妻たち…ヌードのモデルでもあった…との愛憎や死別、背負った莫大な借金、溺愛した息子の死…息子ティトゥスの死後一年ほどでレンブラントは亡くなる)、最初はルーベンス(ら)の記述が続く。
← レンブラント・ファン・レイン Rembrandt Harmensz, van Rijn 「放蕩息子の酒宴(レンブラントとサスキア)」(1635年頃 161×131cm | 油彩・画布) 「新約聖書ルカ福音書に記されるたとえ話≪放蕩息子≫から放蕩息子が娼婦と酒宴を催し豪遊する場面」 (画像そのほかは、「レンブラント-主要作品の解説と画像・壁紙-」より)
あれれ、本書はレンブラントの本じゃないの? と二度三度と表紙や目次を確認したものだった。
百頁以上もルーベンスに費やされているし、最後までルーベンスの亡霊(?)がレンブラントに付きまとって離れない(無論、当時の偉大な画家たちが入れ替わり登場する)。
それは、本書の(出版社による?)謳い文句にもあるように、レンブラントにとって(あるいは当時のオランダなどにおいて)いかにルーベンスが巨大な存在であり、レンブラントに圧し掛かっていたかを示すものなのである。
「宗教戦争の渦中で育った神童は、どのようにしてルーベンスを越えて超絶芸の画家となったのか」がレンブラントの終生の課題でもあった。
→ レンブラント・ファン・レイン Rembrandt Harmensz, van Rijn 「自画像」(1658年頃 133.7×103.8cm | 油彩・画布) モデルはレンブラント自身かどうか不明。自画像だとするなら、この作品を描いた当時、レンブラントは経済的にも破綻の極にあったことを考えると、苦境に負けないという矜持の念と意思を示すものなのかもしれない。 (画像そのほかは、「レンブラント-主要作品の解説と画像・壁紙-」より)
だからこそ、晩年に向かうにつれ、当時のコレクターや絵画の注文主らの好みに反してまで、一見すると(荒れ狂う怒涛の波のような)厚塗りだったり、筆の、それとも刀の一閃だったりなど、荒いような、ある意味、ゴッホらのタッチや手法を思わせるような表現方法に辿り付いた所以でもあるわけだ。
これでは、きっちり綺麗に、出世を極めた自己満足と誇りに満ちた肖像を、世界を描いてほしいという世の大方の要求に叶うわけがないのだ。
まして、フェルメールの静謐なる恩寵の光の世界に敵うはずもない。
たとえば、どんな絵画世界(表現)が当時、好まれたかの、ほんの一例(カイプの世界)を示しておこう(ちなみに、本書ではカイプは、数行も扱われていない):
「オランダ風景画の巨匠アルベルト・カイプ(前篇)」
「オランダ風景画の巨匠アルベルト・カイプ(後篇)」
「カイプ? コイプ?」
← レンブラント・ファン・レイン Rembrandt Harmensz, van Rijn 「ゼウクシスとしての自画像(笑う自画像)」(1665-69年頃 82.5×65cm | 油彩・画布) レンブラント(1606-1669)の最晩年の作。この荒々しいタッチ。分厚い塗り重ね。細密な描写の技術など誰より卓越しているのに、時代の趨勢に断固背いての、レンブラントを象徴する画風である。「偉大なる巨匠レンブラント最後の自画像とされる『ゼウクシスとしての自画像』」 「ゼウクシスとは観る者の目を欺く本物そっくりの絵を描くことができた、類稀な観察眼と欲望、知的情念を持つ古代ギリシアの伝説的な画家で、老女を描いた最後の作品を手がけていた時に、己の好奇心の本性に気付き笑い死にしたとの逸話が残されており、レンブラントは本作でゼウクシスに自身を重ね、同時代の批評家(又は自己の内省)への挑戦的思考を表現したものだとされている」 この謎めいた表情は、自嘲? 韜晦? 画狂人たる意思? それとも老人特有の達観した優しさ、ユーモア?(画像そのほかは、「レンブラント-主要作品の解説と画像・壁紙-」より)
レンブラントについてのちゃんとした解説は、以下がいい:
「レンブラント-主要作品の解説と画像・壁紙-」(ホームは:「サルヴァスタイル美術館」)
せっかくなので、レンブラントを扱った拙稿を覗いてみてほしい:
「レンブラントの風景・風俗素描(前篇)」
「レンブラントの風景・風俗素描(承前)」
「レンブラントの風景・風俗素描(後篇)」
(10/12/30 作)
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コメント
なるほど…。参考になります!いつもこのブログを見るのがとっても楽しみです(*^^)vこれからも楽しみにしていますね☆
投稿: 高田馬場 美容室の一員 | 2011/01/06 20:09
高田馬場さん メッセージ ありがとう! 好きで書いてるブログだけど、こうして書き込んでくれると嬉しい。励みになります。
投稿: 弥一 | 2011/01/06 21:09
素敵です。自分もこんなブログをつくりたいと思っていました。参考にさせてもらっていいですか?
投稿: 高田馬場の美容院よりお手紙 | 2011/02/23 18:05