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2010/12/30

「天皇陛下のリンネ協会での基調講演」とノーベル賞(後編)

リンネ誕生300年記念行事での基調講演
原文(英文):「Address by His Majesty the Emperor」)

英国 平成19年5月29日(火)(ロンドン・リンネ協会)
リンネと日本の分類学 -生誕300年を記念して-(仮訳)

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→ 裏庭で健気に咲く椿(←間違い。山茶花だとか!)。つかの間の雪解けにホッとしている?

 今日はリンネの業績をしのび,リンネの弟子で日本のオランダ商館の医師として1年間日本に滞在し,「日本植物誌」を書いたツュンベリーなどにふれつつ,欧州の学問がいかに日本で発展してきたかということをお話ししたいと思います。

 1707年スウェーデンに生まれたカール・フォン・リンネは,1735年,28歳の時「自然の体系」第一版を著し,新しい分類体系の概要を示しました。それによると,植物界は雄しべの数などによって24綱に,動物界は四足動物,鳥類,両生類,魚類,昆虫,蠕虫の6綱に,鉱物界は岩石,鉱物,採掘物の3綱に分類され,それぞれの綱はいくつかの目に分けられ,更に目の中にはいくつかの属が例示されています。  リンネは,自然が神によって秩序正しく整然と造られていることを確信し,この自然の秩序を見出し,神によって造られたものを分類し,命名し,自然の体系を完成することを目指していました。しかし,雄しべの数によって植物の綱を分けるというリンネの分類体系では,例えば雄しべの数が違っているだけで,他の特徴が極めて類似した種の間でも綱を異にすることになり,また,雄しべの数が同じというだけで,他の特徴が非常に相違している種が同じ綱に含まれることになります。このような観点から,あらゆる特徴を総合的に判断して分類しなければならないという主張が強くなり,リンネの分類体系は系統を重視した分類体系にとって代わられました。  しかし,リンネが創始した二名法の学名は,世界共通の動植物の名称として,今日,学界はもとより多くの人々によって使われています。二名法の学名は,その種が属する属名とその種を指す種小名の結合によって成立っています。
 天皇はリンネが当時日本の多くの植物に学名をつけたこと、彼の分類法が1700年代にドイツ人ケンペルやスウェーデン人の弟子ツュンベリーの手を介して日本に紹介されたこと、さらにこの人たちが生物の分類だけではなく、日本における初期西洋医学や科学の発展に貢献したことを紹介した。特に、ツュンベリーは、『解体新書』翻訳に貢献した桂川甫州ならびに中川淳庵医師たちとの交流が深かったそうで、天皇は、
 ツュンベリーと二人の医師との交流はツュンベリーの帰国後も続き,ツュンベリー宛ての日本人二人の医師の書簡は,ウプサラ大学に保管されています。私は皇太子であった1985年,皇太子妃と共にウプサラ大学を訪問し,スウェーデン国王,王妃両陛下とそれらの書簡を見,そのことは私どもの心に深く残るものでした。
と、スウェーデンと日本の学術的、文化的な結びつきを強調した。  天皇は、リンネが創始した生物の学名が日本人に伝えられたかということははっきりとはわからないと指摘しながらも、関連した歴史的出来事を述べた。 2010_1230071003tonai0034

← 今夜にも寒波が来襲しそうだというのに、椿の花の蕾は、今にも咲かんとしている。

 1829年,日本で初めて学名を用いた本が伊藤圭介により著わされました。(中略)
 米国艦隊の来航により,200年以上続いた鎖国政策に終止符が打たれ,1854年日米和親条約が結ばれました。引続いて,日本は各国と国交を開くようになりました。1867年,徳川慶喜が将軍職を辞し,明治天皇の下に新しい政府がつくられると,政府は留学生を外国に送り,外国人教師を招聘し,人々は欧米の学問を懸命に学びました。この時,日本に招聘された外国人教師の貢献は誠に大きく,また,留学生もその後の日本の発展に様々に寄与しました。

 そして天皇は、その頃の日本人の学問上の業績は、平瀬作五郎によるイチョウの精子の発見、池野成一郎によるソテツの精子発見であると指摘し、さらに、イチョウの学名はケンペルの描いた図を基にリンネによって付けられたことなど、19世紀における日本の誇る研究結果がリンネと深い関係にあることを伝えた。天皇の話によると、それ以後、数々の日本の学者たちが努力して、我が国に生息する多くの生物の学名を付けた。それでも魚類には学名の付いていないものがあり、特にハゼ亜目魚類には学名を持たない種類の物がたくさん残っていることだ。それと関連して、天皇は彼自身の研究成果を紹介したのだった。
 講演の終わりに近づき天皇は再びリンネに触れた。
 リンネが創始した二名法は世界の分類学に普遍的な基準を与え,世界の分類学者が共通の言葉をもって自然界に存在するものを語り合うことができるという,計り知れない恩恵をもたらし,その後の分類学は,この二名法を基盤として今日までその発展を続けてきました。始めにも述べましたように,その後の分類学の発展の中で,雄しべの数により綱を分けていくという彼の分類法は,雄しべのみでなく,もっと総合的特徴により,これを判断するという説にとって代わられました。この時代,まだ系統を分類の基盤に置くという発想がなかったことは当然のことで,ここリンネ協会においてダーウィン,ウォーレスの進化論が初めて世に問われ,系統という観念が,新たに学問の世界に取り入れられるようになったのは,リンネから約100年の後のことになります。

 そして最後に、今日の分類学の状況と将来の分類学は遺伝学も含めて発展すべきあるとの天皇の展望と豊富を語り、
 終わりに当たり,リンネ協会のこの度の御招待に対して改めて感謝の意を表し,リンネ協会の一層の発展をお祈りします。

と、締め括った。
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→ 裏のユリノキは、とっくに葉っぱも落ちて、今夜にも見舞うだろう風雪の訪れを待ち受けている。

[注:本稿は、前編で紹介した井内史郎著『分子生物学でダーウィン進化論を解剖する』(講談社)を参照した。なお、地の文(斜体で示した)は、井内史郎著『分子生物学でダーウィン進化論を解剖する』(講談社)での井内史郎氏の説明。引用文(段落落ち)は、天皇のお言葉である。]

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コメント

写真だけで十分に区別できませんが葉にギザギザがあることや花の形からして、私にはユキツバキではなくサザンカだと思うのですがどうでしょう。花の散り方を見ればで一目瞭然ですが。
ケンペルやツュンベリーを挙げておられるところはいかにも「日本」の学者天皇ですね。私が日本に来た生物学者ケンペルの名を知ったのはこれも生物学者でもあった、ルソーによってですが、シーボルトがケンペルとツュンベリーを顕彰する碑をたしか長崎につくっていますね。見たことはないのですが。
年初から来年のことを言うと鬼に笑われそうですが、来年はジャン・ジャック・ルソーの生誕300年の記念すべき年になります。とりわけ植物に造詣の深かったルソーの側面もクローズアップされることを願っています。
今年もよろしくお願いいたします。

投稿: かぐら川 | 2011/01/01 01:03

かぐら川さん

昨年最後というか、今年初めてというべきか、微妙な時間のコメント、ありがとうございます。
昨年も随分とお世話になりました。
勉強になることばかり。
今年もよろしくお願いいたします。

やはり、山茶花、なのでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%B6%E3%83%B3%E3%82%AB
相変わらず花に(も)疎い、小生、名前を間違えてばかりです。
以前にもご指摘を頂いたような。
調べてみたら、一昨年末に。
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2009/11/post-c32e.html

「生物学者ケンペルの名を知ったのはこれも生物学者でもあった、ルソーによって」とか、「シーボルトがケンペルとツュンベリーを顕彰する碑をたしか長崎につくっています」とか、なるほど、と感心するばかり。

天皇の言動は実に着実・堅実で、直接にノーベル賞に結びついたかどうかは別にして、欧米の方々に感銘を与えたのは間違いないでしょうね。
ホントに、翌年以降の怒涛のノーベル賞受賞につながったかもしれない。

「来年はジャン・ジャック・ルソーの生誕300年の記念すべき年」!
ルソーについては、高校のときから主に「夢想」を、学生の頃からは「エミール」などを読んできました。
でも、「植物に造詣の深かったルソーの側面」には、全く目が及んでいませんでした。
折りしも、昨夜、読了した本にも、ルソーのことへの言及があって、しかも、小生が未読の「新エロイーズ」をめぐってのもので、年内には少しはルソーを読み直してみたいと、改めて思っていたところでした。

最後に、改めて、今年もよろしくお願いします。
また、かぐら川さんにとってよき年でありますように!

投稿: やいっち | 2011/01/01 21:38

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