田中優子著『カムイ伝講義』の周辺(後編)
田中優子さん著の『カムイ伝講義』に小谷野敦さんがレビューを寄せておられる。
おや、小谷野敦さんの本を以前、読んだことがあるぞと、調べてみたら、同氏による『江戸幻想批判』(新曜社、1999年) を読み、感想まで書いていたのだった。
→ 白土三平【画】『サスケ』(講談社)
実は、小谷野敦さんによる『江戸幻想批判』の中の文言(出版社サイドの謳い文句)が、田中優子さんへの偏見が小生に根付かされてしまう契機になったようなのである。
その箇所を転記する:
田中優子『江戸の想像力』、佐伯順子『遊女の文化史』以来、「江戸は明るかった」とか「性的におおらかだった」という「江戸幻想」が盛んですが、その言説を上野千鶴子さんなどのフェミニストまでが支持する今日の知的状況に対して、その性的自由とは強姦とセクハラの自由であり、洗練された遊郭文化とは女性の人身売買の上に築かれた悲惨なものだったと、文学、歌舞伎、落語などの体験的知識を総動員して大批判します。
どうやら、純朴というか素直というか、批判精神の欠如というべきか、その時点で小生の中に田中優子さんへのマイナスイメージが植え付けられてしまったらしい…いや、そうなのである。情けないことに。
そう、田中優子さんは、「江戸は明るかった」といった類の主張どころか、次のように語っておられるのである(「asahi.com(朝日新聞社):カムイ伝講義 田中優子さん - 著者に会いたい - BOOK」より引用):
遊女論もそうですが、私は以前から、差別をかわいそうといいつつも隠蔽(いんぺい)しようとする風潮が気にいらなかった。彼らは社会に必要とされた職能集団で、驚くほどしたたかな生命力を持っていたんです。
あれれ、思いっきり脱線してる。
田中優子さん著の『カムイ伝講義』についての感想は小生ごときがと思うし、殊更、述べないでおく。
メモだけ少々。
今更ながら、非人と穢多の異同を再認識させてもらったし、江戸の世における武士の存在とはを考え直させてもらった。
また、江戸時代の産業の歴史やダイナミズムを学んだし、環境破壊は今に始まったわけじゃなく、人口が急激に増えた時代(時期)には、避けようもなく山林や里山の破壊が起きるとも気付かされた。
本書中の数章は、講義当時は学生だった内原英聡(ひでとし)さんが書いた原稿を元にしているとか。
「あとがき」にもあるが、内原英聡さんの、「庄助のこの(技術開発や工夫といった飽くなき)向上心と純粋な気持ちこそが、現代まで続く人類の環境破壊の原動力になってきたのではないか」という指摘は鋭いし、考えさせるものがあった。
やはり、元原稿とはいえ、内原英聡さんの若さ溢れる熱気が伝わるからのインパクトなのかもしれない。
← 『ワタリ 1 (白土三平選集 新装版 13)』(秋田書店) (画像は、「Amazon.co.jp: 通販」より)
里山は、壊されては、人の手によって修復がなされてきたのだ。それは江戸時代にあっても同じだった(昔は自給自足で、自然に優しい暮らしをしていた、なんてのは夢物語で、実際には人間が居る限り(人間に限らないと思うが)、自然に負荷を掛けずにはいない)。
近代の矛盾なのだろうか。
農業などで土地が開拓・開墾されるということは、即、環境破壊そのものなのであり、問題は、一旦は破壊した自然環境の、そのあとをどうするか、なのであろう。
どうでもいいことかもしれないが、人の髪の毛や爪が肥料になることを知った。
人糞などが家畜の糞と共に肥料になることは知っていたが。
昔は我が家の庭先に立派な肥溜めがあったっけ。
↑ 「小学館:白土三平 画業50年記念出版 決定版カムイ伝全集全38巻」
これからは、切ったり抜けた髪の毛や爪を畑か庭の隅っこに、こっそり捨てる(埋める)ことにしよう。
風呂の水(お湯)も、入浴剤を使っていない限り、庭や畑に撒けば、立派な滋養分となることも教えてもらった。
こうした瑣末な(?)ことも、案外と大切なことなのかもしれない。
余談だが、本書の本文は何故か読みづらい気がした。
本文のせいなのか、それとも構成(文の組み方)のせいなのか。
せっかくの白土三平の画も、もっと大きく載せてほしかった気がする。どうにも、欲求不満になってしまうのだ(満足するほど載せると、千頁を越える本になるやもしれないが)。
参照:「田中優子 法政大学教授プライベートサイト」
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