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2010/12/23

田中優子著『カムイ伝講義』の周辺(前編)

 図書館で美術書ジャンルの書架を物色していたら、「カムイ」なる題名に目が止まった。
 見ると、田中優子著の『カムイ伝講義』(小学館)である。

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← 田中優子著『カムイ伝講義』(一部は、内原英聡氏の原稿を元にしている。小学館)

 「カムイ伝のむこうに広がる江戸時代から「いま」を読む」という副題が付せられていて、「カムイ」なる劇画世界、漫画そのものを扱うわけじゃなさそう。
白土三平の『カムイ伝全集』全38巻を題材に、いまの日本を見直す意欲作」なのである。
 でも、講義の本文の下には、「カムイ伝」から少なからぬシーンが載っていて、やはり、その迫力ある画を見ると、読んでみようかと思ってしまう(必ずしも田中優子さんのファンでもないので)。

 小生は、白土三平のコミック作品である「カムイ伝」や「忍者武芸帳 影丸伝」などによって江戸時代に…というより江戸時代の華やかな面じゃなく、疎外された人々の存在に僅かながらでも親しんだものだ。

「ガロ」も大学生になってからだったが、本格的に読み始めた。 
「忍者武芸帳」は、単行本を全巻、揃えたものだった(いつの間にやら捨てられてしまったが)。

 漫画体験は、大概の人が持っているような気がするが、世の中に(男性に限ると)手塚治を原点に持つ人と、白土三平を原点に持つ人とが居るような気がする。
 小生は、断然、白土三平派なのである。「シートン動物記」に何といっても、「サスケ」。
 白土三平派なのは、別に小生が正義感溢れるってわけじゃなく、たぶん自分が鬱屈した、というか、ひねくれたガキ時代を送ってきたからだろう(かといって、手塚治ワールドも好きである)。


 テレビの時代劇では、江戸時代があまりに綺麗事に描かれすぎている、などとガキの頃に思ったわけではないが(そこまでませてはいなかったが)、中学生前後の頃に目にした漫画を含めた本の中で、江戸時代ということじゃなく、人の生活の実態をリアルに感じた…ような気がしたのだ。
 そう思わせる話だし、劇画表現だったのである。

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→ 白土 三平 著『忍者武芸帳 影丸伝 第4巻』(小学館クリエイティブ)

 非人、穢多(えた)といった存在を知ったのも(歴史の本で知識として全く知らなかったわけじゃないのだが)、白土三平のコミックを通じてだった。
 今でこそ、非人や穢多など(表向きは)存在しないのだろうが、一見、建前上は平等を標榜する民主主義社会にあっても、現実には会社に家庭内に地域に仲間内に何かの組織内に、差別や虐めやついには抹殺に至るような無視の空気、風潮があると、小生の鈍感を以ってしても中学や高校生ともなると感じ始めるのだ。
 関西には今も被差別部落があると知った時は驚きだったが、我が郷里の富山にもあると、ひそやかに教えられたのは、ずっとあとのことだった。


 まあ、天皇制があるってことは、裏返せば差別の構造が厳然とあることを意味せざるをえないのだろう(そんなことに気付くのにもそんなに時間は要しないわけである)。
 天皇制の是非はともかく、天皇制が続く限り、差別の実態は消えないのだろう。

 田中優子さんは、法政大学社会学部教授で、「遊女、被差別民など、歴史の表舞台に登場しない民衆にも着目して江戸時代を立体的に研究」という方。
2003年より法政大学社会学部で「江戸ゼミ」を主宰。2006年4月より、同ゼミと学科基礎科目の授業で『カムイ伝全集』を参考書に使う授業を行ってい」たとのことで、本書もその成果の一端のようである。

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← 白土 三平 著『完全版シートン動物記限定版BOX 』(小学館クリエイティブ)


 本書を読んで、なかなかの内容に感心したのだが、それでいて、冒頭付近で、うっかり「必ずしも田中優子さんのファンでもないので」などと書いているが、どうやら何かの折に彼女の仕事の性格への偏見が植え付けられていたらしい。
 恐らくは、同氏の本を一冊も読んだことがないにも関わらず(テレビでコメンテーターとして活躍していたのは何度か見かけたことがあるが)!

 調べてみたら、拙稿「渡辺信一郎著『江戸の女たちの湯浴み』」に、その事情が示されていた。
 この渡辺信一郎著の『江戸の女たちの湯浴み―川柳にみる沐浴文化―』(新潮選書)は、「多くの古川柳と絵図をもとに、江戸の女たちの湯屋の利用と入浴の実相、女性の行水や腰湯、髪洗いの実態を明らかにした沐浴文化論。湯気の向こうに江戸の女たちの姿態が、生活が見えてくる」(出版社サイドの謳い文句)といった本。

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