彷徨える白猫追って夢の中
朝、通勤途上に、普段は見かけない老いた白猫が、日溜まりに、そう、まるで温泉に首までどっぷり浸かっているかのように目を細め、うっとり陶然と坐っていた。
← 東京在住時代のある時期、仕事で朝帰りすると、とある家の玄関先で出迎えてくれていた老いた白猫。2004/09/16に撮影。間もなく、亡くなってしまったらしい。
大概は、その猫が飼われている家の玄関先のコンクリート段の上に坐っているのだが、その時は、陽光を浴びるためもあるのだろう、道路上に坐っているのだ。そんな場所に坐っているのを見たのは、初めてだった。
でも、それ以上に嬉しいのは、白猫殿が健在だったこと。
我が仕事柄、帰宅は朝となる。時間は七時前後だろうか。昨年など、必ずと言っていいほどに帰宅の途上で白猫殿を見かけ、時には写真にも収めたのに、年末から見かけるのが稀になり、今年に入ってからは、めったに姿を拝めなくなっていた。
特に、二月に入ってからは、見たことがあったかどうか。もしかしたら、白猫殿はかなりの高齢のようだし、悲しい事態に見舞われているのかも、などと思いつつ、猫のための食事を宛がう空っぽの皿のある、路地裏の餌場所を眺めて通り過ぎていたのだった。
そう、見かける場所も道路上(といっても、勿論、道路の端っこだから、車が余程幅寄せでもしないかぎり、安泰で居られる位置だが)という初めても場所なら、猫の顔の向きも初めて見るものだった。本当に日光にまともに顔を向けているのである。背中に暖かい陽光を当てるのではなく、直射日光を余すところなく顔で受けようとばかりに日を浴びているのだ。
浴びているというより、日光を当てているというべきか。だから、目など開けてはいられないのも、当然至極なのである。
老い猫殿は、体毛が真っ白である。それこそ雪のように白い。
→ こちらは、富山に帰郷してから気付いた、我が家の近所の猫(だと思う)。今を盛りという、貫禄十分な白猫だ。
小生がこの猫殿の存在に気付くようになったのは、昨年の夏ごろからだった。その前は通勤のルートも、通勤の時間帯も若干違っていて、姿を見かけることはないか、気付かない程度だった。
だから、小生は白猫殿の老いてからの姿しか知らない。
白猫殿などと勝手に呼称しているけれど、もしかしたら若かりし頃は、薄茶色の、三毛猫風だったりしていたのかもしれない。それが、年老いて、白い部分は一層白くなり、淡い褐色の体毛は脱色されて白っぽくなり、今では、元の色がどんなだったかも、窺い知れないほどに成り果ててしまったのかもしれない。
そういえば、小生も、今年に入って、白髪が急に増えたような気がする。気がするというのは、増えているのは後ろ髪の部分で、いつだったか仕事の最中、鏡に向かって背広の襟首を直していて、その事実に気が付いたのだった。普段もたまには自宅で鏡に向かうが、部屋の中は薄暗いので、気付きようがなかったのだろうか。
白髪の増加に驚く小生も、やがては父のように真っ白な頭髪になってしまうのだろう。
輝くような白、というと、何処かのメーカーの洗剤の宣伝のようだけど、真っ白な頭髪を見ると、元の色が黒かっただなんて、夢のようである。最初から白だとしか思えないほどに見事な銀髪。
その意味で、老いた白猫殿も、白猫殿と呼ぶのは、失礼に当たるのかもしれない。今は白いけれど、昔は、真っ黒な体毛の猫だったかもしれないのだ(そんなことは、さすがにないだろう。でも、茶色、褐色だってってことはありえる。金髪もないんだろう…)。
とまあ、他愛もないことを思いつつ、出勤したり近所を歩いたりするのだ。
話が小生の根性のように曲がりくねってしまって、一体、元の形はどうだったのか、何を話しようと思っていたのかも分からなくなった。
← 白猫は、我が家の庭を縄張りと心得ているらしい。
で、白猫殿の話題を持ち出したのも、久しぶりに白猫殿の姿を見ることが出来たのは、三寒四温の果てに春がそこまでやってきていることの、一つの心温まる証拠の一つではないかということで採り上げたかったのだが、志とは違って、迷路に迷い込んでしまって、しかもどう抜け出したらいいかも分からないで居る。
[「蕗の薹(ふきのとう)」(2005/02/13)より抜粋。昨日の日記で、昔日の白い老い猫を思い出したので…。]
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