狐の嫁入り
話は、私がお袋の田舎である新潟へ連れられて行った時のことだ。
お袋は囲炉裏のある十畳ほどの広い部屋で、田舎のみんなとお喋りに興じていた。お袋の姉夫婦やお袋の姪っ子、甥っ子、それに部屋の隅っこには、柱に凭れるようにして、お袋の母、つまりはわたしの祖母に当たる人も、にこやかにみんなの楽しげな様子を眺めていた。
祖父に当たる人がいたのかどうかは覚えていない。
驚くほど高い天井は煤で真っ黒で、幼かった私は火が燃え盛って焼け焦げた跡なのかと思っていた。
やたらと広い玄関の脇の囲炉裏の間の隣りには、これまたさらに広い座敷があって、何か特別な時でないと使わない開かずの間になっていた。
何故か、囲炉裏の間と座敷を仕切る襖が僅かに開いていて、その透き間から薄暗い座敷をみんなのお喋りに乗り遅れたわたしは、恐々覗いていた。
玄関を上がると立派な廊下が長々と続いていて、その奥には台所があり、その両隣にも部屋があり、そのどちらかの部屋の脇を抜けると、そこには屋敷の裏庭に面する廊下があるのだった。
その廊下の突き当たりに祖父母の部屋があるらしいのだが、幾度か屋敷を訪れたにも関わらず、一度も覗いたという記憶がない。
屋敷の玄関の前の広い庭の外れには二つの蔵があって、それなりの歴史を感じさせたが、裏庭の奥にもある蔵は、垣間見ただけの印象では、どうして建て直さないのか、せめて改修とか補修くらいはしたほうがいいんじゃないかとガキの自分でさえ感じるような古臭いものだった。
表の蔵の一つには、何かの折に中に入ったことがあったはずだが、裏の蔵には、それどころか裏庭には一歩も足を踏み入れることは許されないのだった。
あれから、既に三十年以上は経過している。さすがに屋敷そのものは、とっくに改築されていると聞いている。が、その灰緑色の蔵がどうなったのかは聞いていないし、確かめたことはない。
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