開かずの棚を開いてみたが
相変わらず遺品の整理、家の中の片付け作業が続いている。
大して大きな家ではないのだが、それでも、部屋数だけは多いので、家の中の(遺品の)整理といっても、結構、大変である。
父母の下着や寝具類は捨てるのに、それほど躊躇いは感じないが、スーツ類や上着の類いは、とりあえずは袋に詰めたものの、捨てきれず、今日、とうとう空いた押入れに突っこんでしまった。
蔵(納屋)にも、蔵置したままになった衣類の袋が十袋ほどもある。
それにしても、部屋数が多いだけに、押入れも多い、押入れには天袋もそれぞれにある、箪笥などの家具類も結構ある、廊下も三ヵ所ある。
屋根裏部屋も(ここは全く手付かず。しかし、一昨年の帰郷の折、しっかり覗いているので、整理は後回し)。
ほとんどの押入れは一旦は空にした。その上で、父母の写真や日記類、バッグ類、賞状や作品類を仮置きの形ながら、押入れに納めた。
そのうち、もっと綺麗な納め方を考える。
押入れ詰め込んであるものにしても、廊下に積みあげられているものにしても、多くは一見して使わなくなった家庭用品とか何かの容器とか、まあ、ガラクタの類いと分かる。
綺麗なもの、形の崩れていないものは残して、いつかは使うかもしれないが、この際だから思い切って捨てるという判断も許されるだろう。
そんな中、秘密めいた天袋や座敷の奥の出窓の下の、いかにも大切なものを仕舞っておきたくなりそうな扉つきの棚の幾つかに今日、ようやく手が届いた。
法要の際に、徹底して掃除したり片付けたりしたが、そんな時でさえ、その周辺のあまりの汚さ(何十年も人が立ち入ったり手を突っこんだりしていないと分かる)に辟易して、とうとう躊躇したままに整理を放棄してしまった。
訳の分からないものがゴタゴタ積みあげてあって、しかも、そこは法要の際も人の視線の死角になっているし、人が通り過ぎる場所でもない、奥まった場所となっている。
賞状(但し、まだ何も書かれていない無地のもの)の束、未使用の、あるいは使いかけの障子紙、襖紙、丁寧に巻き込まれた(恐らくは)スダレ、陶器のトックリ数本、絵皿、クルクルと巻かれた鉄道のダイヤ表(手書き)……。
片づけてみたら、案の定、そういったガラクタだった。
一つあった大層立派な丸い陶器の火鉢は、すでに人にあげてしまっている。残っているのは火鉢の下敷きだけ。
問題は、廊下の奥まった一画を片づけてようやく扉を開けることの出来る、座敷の棚である。
気になる場所だが、座敷の側からは開けられない。
床しい!
その辺りは、ひときわ、埃が溜まっている。
両開きの扉(戸)を開いてみる。
長年、開いたことがないようで、敷居の埃が隅っこで固まっている。
棚の上に何があったわけでもないのに、戸がなかなか開かない。
座敷の襖などと同じように、家自体が傾いているのか、開け閉めが窮屈である。
それでも、半ば強引に開けてみる。
まずは手前側。
ネズミか何かの死骸でもあったら嫌だなと思ったが、扉が締めっきりでは、クモなどの小動物しか中に入れるわけもない。
中から立派な、漆塗り紛いの箱が幾つも。
開いてみたら……、なんのことはない、昔、何十年か前の親戚の者の結婚式の際の、結納の何かを入れる箱で、熨斗袋(祝儀袋)やら(無論、中味はなし!)、お礼の手紙やら。
が、箱の下に懐かしい小箱が見えてきた。
小倉百人一首ではないか。
ずっと、ずっと昔、家族でやったような気がする。あるいは、嫁いで行った親戚の者が残していったものなのか。
金目のものは何もない!
今更、一人で小倉百人一首を楽しむ風流心も小生は持ち合わせていない。
4つの戸の中のほうの2つの戸を両開きしてみる。
そこには、小降りのミカン箱ほどの木箱がデンと鎮座している。
何かよほど大切なものが収まっているのでは!
逸る気持ちを抑えつつ、箱を引っ張り出し、木箱の箱を開いてみると……。
何のことはない、団扇が数十個、納められているだけ。
団扇の束の奥を覗いてみても、箱の底には何もない!
要するに、何でも集めるのが趣味(性分?)の父が、昔、集めていた団扇を、たまたまあった木箱に丁度収まるだけの団扇だとばかりに木箱に詰め込み、苦し紛れに座敷の棚の奥に突っ込んだというだけのことなのだった。
期待しただけ、ガッカリであった(何を期待したわけでもないが)。
実を言うと、今日は、もう一箇所、どうしても何か期待する心を抑えられない棚を開いてみたのだった。
そこは、父の書斎である。
その棚は書斎の壁に作りつけになっている書棚がある。
書棚は、ほぼ整理し終わっているのだが、書棚の下に両開きの戸で閉められている棚がある。
が、すぐ隣りというか、棚の前に父の机が鎮座している。
今まで、その机の上にいろいろ積み上げられてあったし、そうでなくとも、書棚の整理の際、仮置き場所として重宝していた。
その書棚の整理がほぼ終わった今、机の周辺には空間が一杯できた。
なので、書棚の下の戸を開けるのに、何の支障もない。
他の場所は大よそ片付いたし、座敷の縁側の廊下の突き当たりのデッドスペースも外の光や風を入れたこともあり、その勢いで今日、この謎の棚下の収納場所も御開帳に及ぼうと思い立ったのだ。
しかし、開いてみたら、そこは、備品入れ(置き場)に過ぎなかった。
父の趣味の篆刻の道具類、篆刻の印を押す大量の紙類、幾つかの硯一式(父は一体、何個の硯一式を持っていることやら)、昔、蒐集していた古銭のためのケース類、父が世話役をした旅行会の関連書類(大き目の角封筒にそれぞれに纏められている)の束、未使用の角封筒の束……。
なるほど、備品を納めるに相応しい場所だなと、中を確認して得心がいった(備品を書棚に並べる必要もあるまいて)!
結局、謎の収納場所も、開いて覗いてみれば、なんのことはなかったという次第であった。
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