94年の暑さと今年の暑さ
この夏の暑さは半端じゃない。
テレビ(など)の報道によると、東京の場合、夏の平均気温(の平均値や熱帯夜の日数)などが1994年の記録を今日、超えるのだという。
このニュースを聴いて、一昨年の2月末まで東京在住だった小生、へえーと思った。
1994年当時、そんなに暑かったという記憶があまりないのだ。
無論、当時も東京で暮らしている。
しかも、1994年の2月末に会社側から首を申し渡され、3月一杯を以て無職となった。
実際には3月冒頭から有給を消化する形で会社へは出社に及ばずということで、3月から生活はフリーの状態。
フリーというと聞こえがいいが、要は糸の切れた凧であり、社会との絆も切れたということ。
当時は、友人との付き合いも途絶えがちで、会社との縁の切れ目は文字通り社会との縁の切れ目でもあった。
幸い、真面目にサラリーマンしていた御陰でか、失業保険の給付が7ヶ月ほどあり、生活を切り詰めれば、年末までは暮らしていける。
その頃は、ハローワークに赴けば、職を選ばなければ、そこそこに仕事があった。
世が不況に突入するのは97年の8月からである(橋本不況)。
小生は十数年のサラリーマン生活にうんざりしていて、慌てて仕事を探したりしないで、第二の人生をじっくり考えるつもりでいた。
年内(1994年)のうちに方針を決めればいいと思っていた。
4月からは規則正しい生活を送った。
まず、午前中、創作活動に励む。
毎日、400字詰原稿用紙換算で10枚となる分量の創作(執筆)活動。
実際には原稿用紙ではなく、ワープロでの創作だった。
89年から創作活動は忙しい会社の仕事などの合間にちびりちびりと続けていたのだが、毎日、10枚分の創作をするってのは、94年の4月からのこと。
94年から翌年の春までに、300枚相当の作品を何作も書いた。
午後は国民健康保険に登録(加入)したことで配布されるプール券を有効活用するということで、週に4回はプール通い。
最初はプール券が勿体無いから通っていたのが、そのうち、習慣というかノルマみたいになった。
ブログでも書いたことがあるが、それまで十メートルも泳げなかった自分だったので、とにかく泳ぎたい一心だった。
泳げるようになると、今度は少しでも長くと欲が出てきて、翌年の春先までには千メートル以上、要はプールに滞在している間に泳げるだけ泳ぐようになっていた。
息継ぎがスムーズになったので、体力次第、時間次第で泳ぐ距離が決まるのだった。
プールで体の調子を整えたあとは(サラリーマン時代の最後の数年で体がボロボロになっていた。プール通いで体重が十キロほど絞れたっけ)、図書館へ。
運動不足を解消する意味もあって、自宅から二十分前後のところにある数箇所の図書館へ歩いて通った。
この失業時代の読書についても、ブログで書いたことがあるが、とにかく、読書の範囲を広げることに主眼を置いて、幅広く渉猟して読み漁った。
何箇所もの図書館へ通うことで、書架の渉猟が楽しくなる。
学生時代以来の読書三昧の日々だった。
失業時代の一年ほどで二百数十冊を読破。
それまで読んだことのない日本の古典、外国の古典を読み倒していって、随分と知見を広めることができた。
昼間、図書館で借りてきた本を、夜などに読み耽る。
午前中に創作の形で(ワープロで)執筆していたが、夜は日記やエッセイを書いたりする。
その上、手書きの日記も毎日、欠かさない。
要するに失業時代の一年は、生活の上では創作に体作りに、読書にと充実していたわけである。
1994年の夏は暑かった…という記憶がない。
当時、テレビとは縁遠い生活だったので、記録尽くめの夏だったというテレビのニュースに疎かったのかもしれない。
暑かったという実感はあったはずだが、暑い盛りの時間帯はプールで過ごす。
プールの日陰で、あるいは、プールの中で。
94年当時、小生は40歳だったので、プールサイドで日光浴などはしない。
体は、プールの中で泳ぐことで、自然に日焼けするのなら構わないし望ましいと考えていた。
プールからあがったら(一時間に10分ほど所定の休憩時間がある)、日陰を探し、スポーツタオルの上で、あるいはベンチが空いていたら、ベンチで過ごすようにしていた。
無論、日除けのあるベンチを選ぶ。
その後、図書館へ直行するか、家に帰るかだが、既に日は傾きかけていた。
それに、記憶する限り、夕方には今ほどの蒸し暑さは和らいでいたように思う。
94年の夏は暑かったのだろう。
けれど、無職の身でありながら、生活が充実していて、心中のほうがずっとカッカと熱かったのかもしれない。
今年の小生は、夏の暑さは、父母や親戚、近所の方たちの永眠や、通夜、葬儀、(扇風機だけが頼りという暑い座敷での)法要、松や杉の剪定、などで記憶されるに違いない。
94年の夏の暑さと今年の暑さとは、まるで違う暑さ、というわけである。
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