母とのこと
[以下は、ミクシィの日記での書き込みを転記したもの。舌足らずな表記なのは、走り書きだから。殴り書きの日記をそのままに公開します。]
言葉(発音)上の不都合もあって、母とはなかなか意志の疎通がうまくいきませんでした。
日常の会話自体がもどかしいばかり。
子供の頃、発音が極端に悪く、母だけじゃなく誰とも意志の疎通がうまくいかなかった。
よほど勘のいい人なら小生が言わんとすることを察することができる。
けれど、母はその意味では察するのに難があって、しばしば意味を取り違える。
赤の他人ならともかく、親子(母子)なのに、どうしてオレの言葉が通じない!
ガキだった小生は、母を(無論、自分を)歯痒く思い、会話が成り立たないたびに(つまり、しばしば)癇癪を起こし、怒って、口を利かなくなったものでした。
母はそんな小生(と)のガキの頃のトラブルがトラウマになってしまって、十歳の時に手術して少しは発音がよくなっても、小生を腫れ物に触れるような、事なかれ的な扱い方をするようになりました。
十歳の時に受けた手術は口蓋の不具合を直すもので、一定の効果があり(ただし、別のとんでもない障害が生じてしまった)、誰ともそこそこには意志を通じることができるようになりました。
でも、母は十歳までの小生との会話上のトラブルに懲り、ちょっとでも小生の言っていることが聞き取れないと、聴かなかったことにし、そっぽを向いたり、お茶を喫したり、他の話題に移ったり、要は、聞き取れなかったことをなかったことにしようとしました。
再度、聴きなおすと小生が(ガキの頃のように)堪忍袋の緒が切れて泣き喚くと思い込んでいるわけです。
でも、少なくとも十歳の時の口蓋の手術でそこそこの発音は恢復したし、自分なりに発声の練習を夜毎、積み重ねたりして、上記したように誰ともまあまあの会話は交わせるようになっている、はずなのです。
なのに、肝心の母は、事なかれ主義に走ってしまい、語りかけている小生を置き去りに、そっぽを向く。
置いてけ堀!
よほど、ガキの頃のことが強烈なトラウマとなっているのでしょう。
でも、母がそれでいいはずがない!
客観的に見ても、母は一番、安易なトラブル回避の道を選んでしまったように思えてなりません。
その場さえ、穏便にやり過ごせば、万事、うまくいっている…かのような幻想。
数年前、末期ガンの宣告を受けた母。余命数ヶ月と言われていた。
でも、老人特有の病状の進行の遅さもあり、母の辛抱強さもあって、その後、数年、生き抜き、とうとう今日まで余命を保ってくれた。
晩年の母との間も、ちぐはぐしたものだった。
ある意味で、ガキの頃の意志の疎通の悪さが、もっと込み入った風になってしまった。
糖尿病などの病気もあり(神経(頚椎骨損傷に由来する)の病気もあった)、やや耳が遠くなって、小生とは一層、会話が成り立たなくなった。
発音のクリアーな人の語りかけだと母は聞き取れる。
なので、体調が平穏なときは、会話が成り立つ。
お医者さんや看護師さん、近親者との会話も成り立っている。
でも、小生だと、そうはいかない。
発音の悪い小生は、ちょっとでも大きな声を出すと、声が割れ、母には聞き取れなくなる。
なので、小生が何を語っても母はキョトンとしてしまう。
ただ、今度はガキの頃とは逆なのです。
小生が碌に自分(母)に語り掛けないと思ってしまうようになったのです。
小生が喋っても、口の中でモゴモゴしているだけで、少なくとも母には聞き分けることができない。
それどころか、他の人たちは積極的に語りかけているのに、息子の小生だけが沈黙に近い形で遠くから見ているだけ。
せっかくお見舞いに来ても、小生が押し黙っているとさえ、母は思っていたかもしれません。
最後の最後まで母とは(母とだけじゃないけど)チグハグした関係のままに終わってしまいました。
自分が生まれながらに背負った業は、少なくとも母のせいとは思っていないこと、その誤解だけは解いてあげたかったけれど、それすら為しえないまま、母はこの世を去ってしまいました。
自分の不甲斐なさ。
正面からぶつかり合うことのない、向き合うことのなかった親子のままに終わったのです。
(10/07/31 作)
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コメント
なぜそこまで、と思いながら拝見しました。
それに、以前の交流(NETのみですが)からは想像も出来ないことでしたので驚いてもいます。
私も今、私の不注意からですが、母と同居せざるを得ない状況で(父は2年前に他界)、独り実家の北海道に戻っています。
久し振りに同居する母とは、やはり話しが噛み合わないことも多く、長年の別環境での生活も手伝って、なにかぎこちなさを抱えた感じです。負い目もあります。
やいっちさんのこの記事は、他人事では無い何かを気付かせてくれた気がします。
投稿: td | 2010/07/31 21:26
td さん
母との間は、(実のところ、母との間だけじゃないけれど)、最後までちぐはぐしたものでした。
自分の至らなさのせい、なんて書くと殊勝だし、当たり障りがないのでしょうが、実際にはドロドロしたもの。
自分の業の深さを感じるばかり。
小生の孤独地獄は、最後まで続くようです。
投稿: やいっち | 2010/08/01 20:55