熟れた果実と色認識と
ある本を読んでいたら、ちょっと気になる記述に遭遇した。
「色が見えるようになったのは、私たちの先祖が熟れた果実と未熟な果実とを区別する必要があったからだと考えられている」というくだり。
そのあとに、「だが、いったん色が見えるようになると、私たちはその能力を他のありとあらゆる目的に使い始めた。今では地図を読んだり」云々と続く。
本書では色の(識別)の話が本題ではないので、以上のようにサラッと触れられているだけで、この話題には二度と戻ってきていない。
→ フランス・ドゥ・ヴァール 著『共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること』(柴田 裕之【訳】 西田 利貞【解説】 紀伊國屋書店) 一昔前の動物行動学とは様相が一変わりしている。昔なら、動物同士、人間と動物の共感なんて笑止だったろう。なかなか魅力的な本である。人間は人間にとってオオカミである、といった言い草がある。これも、誤解が解かれ、オオカミへの理解が深まれば、意味合いは180度、変わるだろう。
我々の先祖が、いずれかの時点で色の識別ができるようになったのだろうが(そうでないと、人類の、あるいは類人猿の、それとも哺乳類の、もしかしてもっと以前の段階から、最初から色が識別できていたことになる)、熟れた果実と未熟な果実の区別の必要から色が見えるようになった、というのは、納得できるようでいて、何か釈然としないものも感じる。
まあ、指摘されてみると、あまりに当たり前のように思えて、呆気に取られたってのが正直なところだが。
本書では、「私たちの先祖」とあるだけで、人類の先祖なのか、もっと進化の初期の段階の種を想定しているのか、定かではない。
あるいは爬虫類や恐竜の段階にまで遡るのかどうか。
ただ、文脈を素直に理解すると、人類でなくとも、哺乳類の先祖なんだろうとは推定してよさそうである。
果実の熟し具合に関心があるのは、森に生きる生物だろうし、その筆頭は恐竜の天下だった時代に、そのニッチに細々と生きていた哺乳類(の先祖)だったのだろうと思われるからだ。
無論、色の識別以前に、そもそもは世界を明暗で認識できるようになったのが、視覚の始まりで、徐々に何らかの形で色の識別能力を獲得していったと考えるのは当然だが、それにしても、果実の熟れ具合と色(の識別)という着眼は、霊長類(類人猿)など、我々の先祖のサバイバルぶりが偲ばれて、想像力を刺激される。
(「■アンドリュー・パーカー著 『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』 In the Blink of an Eye 感想 前編 ★究極映像研究所★」など参照。)
森の中で生きて、時に恐竜や爬虫類にも立ち向かうことがあったのだろうが、主に口にするものは、河川の恵みであり、森の木々の賜物だったのだろう。
それこそ、サルたちが通常、何を食しているかを見れば、私たちの先祖の生きる術の一端が見えると思っていいのだろう。
森の賜物、その最たるものとしての果実。
それが熟しているかどうか、あるいはキノコ類にしても、食べられるかどうかの判断は、生存の可能性を随分と広めた(あるいは狭めた)だろうことは推測に難くない。
昼間は森の樹木や丈高く生える草原の陰に隠れて潜み、夜はやはり樹木の高みに隠れ場所を見出す。
色の識別も、生存のための絶対的な必要があって、次第に獲得されてきた能力なのだろう。
← アンドリュー・パーカー 著『眼の誕生 ――カンブリア紀大進化の謎を解く』( /渡辺政隆 訳 /今西康子 訳 草思社) 題名もテーマも小生の関心のど真ん中を射抜く書。小生の感想より、「アンドリュー・パーカー「眼の誕生」 - Close to the Wall」が参考になる。
やや専門的な話は、例えば、下記を参照:
「サルが見た色の世界 色覚の進化をたどる」
主に日本語における色の名称については:
「春光・色の話」
(10/06/16 作)
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