ガロアとアーベルが出遭っていたらなー
一昨日までは、A.ストゥーブハウグ 著の『アーベルとその時代―夭折の天才数学者の生涯』(願化 孝志【訳】 シュプリンガー・フェアラーク東京)と、田中 善信【著】の『芭蕉―「かるみ」の境地へ』(中公新書)とを並行して読んできた。
そのうちの一冊の『芭蕉―「かるみ」の境地へ』は読了したので、昨日からは、『アーベルとその時代―夭折の天才数学者の生涯』と、石原 あえか 著の『科学する詩人 ゲーテ』(慶應義塾大学出版会)とを並行して読み始めている。
→ 石原 あえか 著『科学する詩人 ゲーテ』(慶應義塾大学出版会) 「ゲーテの文学作品の本当の面白さ、そして味わい深さは、「詩人にして官僚、並びに自然研究者」という職業コンビネーションから生み出されたものだと言える」! ゲーテの文学の理解は小生には到底、及ばないものの、ゲーテの表現の在り方は、ある意味、小生の創作の上で一つの理想に近い面がある。何もストレートに科学的な成果を文学作品に盛り込む、という意味ではない。文学的営みも科学的営みも、人間による知的限界に挑む営みであり、リアルに迫る、違うルートを辿っているに過ぎないと思っている。
並行して複数の本を読むのは、気が短いというのか、一冊の本とジッと付き合えない性分だということもあるが、寝床に入っても読める本は必ず確保しておきたいという思いがあるから、という理由が大きい。
ベッドで仰向けになって重い本を読み続けるのはシンドイ。
単行本でもいいが、とにかく手に持って負担にならない本である必要がある。
一冊の本だけを読んでいると、それが例えば今、十日ほど付き合っている、『アーベルとその時代―夭折の天才数学者の生涯』のように、図鑑ほどに大きく且つ重いとなると、とてもじゃないがベッドには持ち込めない。
(お腹が出っ張っているので、うつ伏せでは本を読めない。むち打ち症の後遺症があるので、長時間のうつ伏せは小生には辛い。)
それと、二冊の本を読む場合、大概、一冊は理科系の本(といっても、数式に弱い文科系の頭でも理解可能な本)、もう一冊は、理科系以外の本を選ぶ、という傾向にある。
理科系の内容の本を読んでいると、文学や哲学、音楽、美術のことが気になり、かといって、文系の本を読んでいると、理系の話題に飢えて来てしまう性分なのである。
ということで、今、『アーベルとその時代―夭折の天才数学者の生涯』と『科学する詩人 ゲーテ』とを並行して読んでいるのだが、たまたまだろうが、天然痘の話題がどちらの本にも出て来た(それも、読んでいて相前後して読む羽目になった!)。
ゲーテの本では、天然痘を克服しつつある時代だが、一方のアーベルの本では、天然痘は初期的な形だが種痘という手段で克服したのに、何故、結核は未だ克服していないのかと、アーベルが嘆く、それどころか不甲斐ない医学界に怒り心頭という話の脈絡の中で扱われている。
← A.ストゥーブハウグ 著『アーベルとその時代―夭折の天才数学者の生涯』(願化 孝志【訳】 シュプリンガー・フェアラーク東京) 「本書は、アーベルの生涯を経糸とし、彼の生きた時代を緯糸として精緻に織りなされた物語である」! ガロアとアーベルは、フランスで同じ空気を吸った時期もあったが、擦れ違いに終わったようだ。もし、二人が出会っていたら…。
そう、アーベルは晩年(といっても若干26歳!)結核なる病に冒され、少なからぬ人々にその百年に一人という天才を惜しまれつつ、彼の才能に見合った処遇に恵まれることなく、それどころか彼の畢生の論文を預けた関係者が紛失してしまうという悲運にも見舞われつつ、結核(肝機能障害)や気管支炎などで死の床に伏し、死んでしまう…。
今日、彼のこの伝記本の末期の姿を描く場面を読んだのだった。
皮肉にも、もう間に合わなくなった時点で、やっと当局が彼を彼に相応しい待遇で遇することに決定するのだ。
まるで、実際に当局の懐を痛める懸念がなくなったから、リップサービスだとばかりにアーベルに朗報を発したかのようだ。
天然痘はヨーロッパでは18世紀から19世紀のはじめにかけてほぼ克服されたが、結核という病が克服に至るにはまだ百年以上の歳月を待つしかない。
結核関連拙稿:
『オーブリー・ビアズリー 死と背中合わせのエロス』
『徳永進著『隔離』を読んで』
『佐伯祐三…ユトリロのパリを愛してパリに果つ』
『吉野秀雄著『良寛』雑感』
『サナトリウムと結核と…』
(10/06/08 作)
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