「月影に寄せて」から
元始、女性は実に太陽であつた、という言葉がある。
人間は誰しもが太陽なのかもしれないと思う。
→ 在りし日の月影 (「月影のワルツ?」より)
地上の星々でも書いたように、地上に生きている全ての人が、それぞれに星であり、太陽なのだ。生きとし生ける全ての存在が、太陽であり星なのである。
あまりに当たり前に地上のこの世界に星々が煌いているから、そうした事実に気が付かないのだ。自分だって実は太陽であり星となっていることがわからないのだ。
小生は、書くことに全ての情熱を傾けている。書いている内容や、深さ広さに難があっても、とにかく世界のほんの一端にでもいいから触れたいと思っている。表現したいと思っている。
書くとは恥を掻くことというのが、自戒の言葉というか、モットーに近い表現である。
そんな戒めの念を抱きつつ掻き続ける…、飽くことなく、ありとあらゆる由無し事を書き綴るというのは、別に知識を広めるためでも、薀蓄を傾けるためでもなく、書きながら何事か新しいことを調べ、あるいは何か興味を惹く何かに触れたならその何かを紙の上に少しでも定着させたいのだ。
書くとは、ある種の懇願の営為なのだ。
何への憧憬か。それは、生きること自体の不可思議への詠嘆であり、この世に何があるのだろうとしても、とにかく何かしらがあるということ自体の不可思議への感動なのだ。
この世は無なのかもしれない。胸の焦慮も切望も痛みも慟哭も、その一切合切がただの戯言、寄せては返す波に掻き消される夢の形に過ぎないのかもしれない。
でも、たった今、ここにおいて感じる魂があるということ、それは、つまりはこの地上世界に無数に感じ愛し悩み喜び怒り絶望し感激する無数の魂のあることのこの上ない証拠なのであり、その感じる世界の存在は否定できないような気がするのである。
さて、話は戻る。
小生は太陽でもなければ、地上の星々の一粒でさえないのかもしれない。
でも、どんな塵や埃であっても、陽光を浴びることはできる。その浴びた光の賜物を跳ね返すことくらいはできる。
己の中に光を取り込むことはできないのだとしても。
月の形は変幻する。満ちたり欠けたり、忙しい。時には雲間に隠れて姿が見えないこともあるだろう。
でも、それでも、月は命のある限り、日の光を浴び、そして反射し、地上の闇の時を照らそうとしている。
月の齎す影は、闇が深ければ深いほど、輪郭が鮮やかである。
懸命に物の、人の、生き物の、建物の形をなぞろうとしている。地上世界の命を愛でている。柔らかな光となって世界を満遍なく満ち溢れようとする。月がなかったら、陽光が闇夜にあって、ただ突き抜けていくはずが、その乾いた一身に光を受け止め跳ね返し、真の闇を許すまじと浮かんでいる。
忘れ去られることのほうが実際には遥かに多いのに。
月の光は、優しい。
優しさと裏腹の残酷さを抱え込みながらも…。
← 10日の未明、某学校の校庭越しに明け初めの光景を眺める。
月は、陽光のようにこの世の全ての形を炙り出し、曝け出し、分け隔てするようなことはしない。ある柔らかな曖昧さの中に全てを漂わせ浮かばせる。形を、せいぜい輪郭だけでそれと知らせ、大切なのは、恋い焦がれる魂と憧れてやまない心なのだと教えてくれる。
せめて、月の影ほどに、この世に寄り添いたいと思う。
窓の外の定かならぬ月影を見ながら、そんなことを思ったのだった。
(03/11/25 記 10/05/11 一部抜粋修正)
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