同じ本でも歳月を経たら感想は違う
今また大部の本を読んでいる(ジュールズ・キャシュフォード【著】の『図説 月の文化史〈上・下〉―神話・伝説・イメージ』(別宮 貞徳【監訳】 片柳 佐智子【訳】 柊風舎)で、上下巻併せて850頁ほど)。
この本に掛かりきりでは、やや鬱陶しいので、決して息抜きというわけではないが、図書館で合間に読む本として軽い本を物色していたら、エリ・ヴィーゼル著の『夜 [新版]』 (村上光彦訳 みすず書房)が新入荷本の平棚にあるのを見つけ、思わず手にとった。
→ 今朝未明、仕事の最中、とある民家の軒先で月影を撮る。このさと一時間もしないうちに雨模様となった。だから束の間の晴れ間で、月光を浴びつつ、月影を追いつつの楽しい仕事のひと時だったのである。
無論、決して軽い本などではない。小生が言う軽いは、手に持つ重みや大きさのことで、大部の本を寝床で手に持って読むのは大変なので、就寝の際には、手に負担の少ない本を常に備えておくことにしているのだ(職業病なのか、左腕が痛い。筋肉痛のようだ)。
本書かどうかはっきり覚えていないが、学生時代にもエリ・ヴィーゼルの本を読んだことがある(フランクルの『夜と霧』などと共に、真面目ぶった学生の必読書の一つであった)。
ユダヤ人の「絶滅工場」アウシュヴィッツ!
ホロコーストの記憶!
当時は、ひたすら深刻に真剣に読んだものであった。
どんなに想像力を駆使しても追いつけないほどの深甚なる悲劇の世界。
しかし、戦後の世界の動きを見ていると、このユダヤ人の未曾有の悲劇がユダヤ人(アメリカやイスラエル、あるいはイギリスなど)によるパレスティナへの一方的な振る舞いを正当化するために、安易に口出しをさせないエクスキューズ(便法)のために使われているようで、単純には割り切れない理解も小生の中で醸成されている。
イスラエルの過剰(としか小生には思えない)反応的な、やわな常識など粉微塵にしてしまう仕儀も、中東での地政学的な情勢と過去の経緯からして、他国(他民族)の容喙を断固拒否して省みないのも当然であるかのようでさえある。
戦後のイスラエルやアメリカの正義の戦いの数々(世界各地での政権転覆や虐殺の数々)の顛末を見ると、学生の頃のようには素朴には本書を読めない。
← エリ・ヴィーゼル著『夜 [新版]』 (村上光彦訳 みすず書房)
とはいっても、本書の記述は、読むほどに悲惨極まるものであることは、今更ながらに痛感させられている(まだ、読んでいる最中なので、読了しての感想は書けないのだが)。
念のため、この『夜 [新版]』に寄せたヴィーゼルによる新しいまえがき「新版に寄せる」の一部を転記しておく:
狂って冷たい世界――そこでは非人間的であることが人間的であり、規律正しく教養ある、制服に身を固めた人々が人殺しをしにやってくる一方、驚きのあまり呆然とした子どもたちや、力の尽き果てた老人たちが辿りついては死んでいったのであるがーーを発見したときのこと。炎の燃え立つ闇夜のなかで別れ別れになり、すべての絆がぷっつりと切れ、家族全体が、共同体全体が破れ裂けたときのこと。また、髪の毛は金色で悲しげな微笑を浮かべた、おとなしくて美しいユダヤ人の女の子が、母子が到着したその晩のうちに母親ともども殺されて消えうせたときのこと。どうしたら、そうしたことどもを想起しながら、手を震わせることなく、心臓が永久に断ち割られることなくすませられようか。
→ 昨日、夕方、母の見舞いへの途次、富山城の脇を通った。冬の間、富山の寂しい夜景を彩ってくれていたイルミネーションも、二月いっぱいでお役御免のようだ。
改めて念を押しておくが、深刻な内容の本であることを否むつもりは全くない。
ただ、にもかかわらず、心に但し書きを付して読まざるを得ないだけであり、世界が嵐に玩ばれる木の葉のように揺れて止まず、しかも、押し流される果ては見えず、そもそも漂流の先に確固たる陸地に辿り着くものやら、さっぱり見えない現実を思うと、人間の、人類の生み出す混沌は、もしかして混沌そのものが人類の本質なのかとすら感じさせられる。
人間は死ぬまで悩み苦しみ続ける、そのプロセスだけが人間だ、ということか。
ま、でも、まだ本書を読み出したばかりなのだ、先を急ぐこともあるまいて。
(10/03/01 作)
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