サブレって、あのサブレー ? !
ジョージ・エリオット 著の『ジョージ・エリオット 評論と書評』(川本 静子 訳, 原 公章 訳 彩流社)を読んでいたら、「サブレ」という名称に遭遇した。
→ パッと、サイネリアでした! ネット仲間の方に教えていただきました。
この「サブレ」って、もしかして、あの「サブレー」 ? !
でも、日本語で発音する(カタカナ表記する)と、元の言葉の発音とは似て非なるものになりがちだから、表面的な相似に過ぎないのかも、とも思える。
この「サブレ」なる言葉に出合ったのは、上掲書の中の「フランスの女性――マダム・ド・サブレ」という章である。
この章は、「エリオットがロンドンの書肆チャップマンから、フランスの哲学者ヴィクトール・クーザン『マダム・ド・サブレ――十六世紀の著名な女性たちと交際社会に関する研究』(一八五四)の書評を依頼され」書き下ろした評論で、「これが以後二年に及ぶ「評論家ジョージ・エリオット」としての、記念すべき第一作とな」ったもの。
先日も書いたが、エリオットが評論や書評を書いていたなんて、小生には初耳だし、それ以上に根拠もなく意外に思えたのだった。
この書評(評論)では、エリオットは「マダム・ド・サブレと、その周辺のフランス女性たちの肖像を描くことに専念している」。
フランスの社交界(サロン)の交際ぶり、発達ぶりはつとに知られている。絵にも小説にも描かれているし、言論界が左右されたし、政治の舞台であり、エリオットならずとも他国のものには耳目を引く、眩しい世界だったろう:
(前略)当時、貴族の女性たちは自宅をサロンとして解放した。男だけのイギリスのクラブと違って、サロンには男女を問わず当代の代表的知識人が集い、女性たちはその新鮮な知的空間の中で、十分にその知性を開花することができたのだった。エリオットは、サロンを主導した女性たちの交友関係を始め、そこでの会話や雰囲気などを、ジロンド党やポールロワイヤルなど、当時の社会背景を踏まえつつ再現する。特に興味深いのは、女性たち――とりわけ病気恐怖症のマダム・ド・サブレ――の人となりや、パスカルやラ・ロシュフコーとの関係、及び後者の『箴言集』成立の状況などが語られるときである。また「サブレ」という菓子は、それを考案した夫人の名前から取られたが、美食家としての夫人の記述を読めば、それも十分うなずける。(以下、略)
マダム・ド・サブレは、エリオットの紹介を読むと、果たした役割や影響力は相当なものだった。
にも関わらず、それほど高名でないのは、本人が文筆などでの才能を発揮し得なかったことがある。
サブレ夫人は、美食家であり、むしろ持て成す立ち位置を守り通したという。
一時、政治的に対立が昂じて諍いの渦中に陥った際も、両者との交流を続け、繋ぎ役を果たしたりした。
一言で言うと、談論の際も自己主張に走るより、相手の言い分をよく聞く、黒子的な女性だったわけである。
← ジョージ・エリオット 著『ジョージ・エリオット 評論と書評』(川本 静子 訳, 原 公章 訳 彩流社) 装丁がとっても綺麗。「これらの評論や書評は、歴史・文学・宗教・思想などヴィクトリア朝文化全般にわたるメアリアンの該博な知識と深い考察をよく反映し、とりわけ、芸術におけるリアリズムの標榜や芸術の目的を共感の拡大に見出す姿勢など、のちの作家ジョージ・エリオットに通底する基本的思考の糸すじを明確に浮かび上がらせている」(「あとがき」より)
「サブレー - Wikipedia」を読むと、「サブレー (Sablé) とは、クッキーの一種であり、サックリとした食感とバターの風味が特徴の洋菓子である」とした上で、「名称の由来」の項で、複数あり、「サブレーが作られたフランスの町の名前に由来している」と「フランス語において sablé は動詞 sabler (「砂をまく」、「砂で覆う」という意味)の過去分詞形であり、「砂で覆われた」といった意味合いをもつ」との両者が示されている。
しかし、少なくとも本書を読む限り、上掲の転記文にも示したように、「「サブレ」という菓子は、それを考案した夫人の名前から取られた」とある!
お菓子の「サブレー」の名称の由来について、真偽を確かめるのは小生の能ではできないし、ここでは説を示しておくに止めておく。
ちなみに、「鳩サブレー」が有名だし、小生も大好きなお菓子だが、下記のようなエピソードがある:
鳩サブレーは明治時代末期の発売当初には「鳩三郎」とも呼ばれていた。これは、この菓子を開発した初代店主が最初に「サブレー」と言う耳慣れない単語を聞いた時に「サブレー」=「三郎」と連想したためである。
小説家としてのエリオットは94年以来のファンである。爾来、数冊の本を読んできたし、繰り返し読んだ本もある。
しかし、評論や書評となると、はて。
→ 家の庭や畑など、随所に群生している、「ラッパ水仙」。こんなに早く咲き始めて、大丈夫なのだろうか。なお、「水仙…ナルシスの花の香」を覗くも良し。
ドストエフスキーの小説は好きだが、彼の「作家の日記」には(所収となっている小説は別儀として)退屈した苦い思い出があり、エリオットも彼女の本領は小説であって、散文は退屈するのではと、やや腰が引けていたのだが、読んでいくに従って、彼女の舌鋒の鋭さと目配りがこの分野でも遺憾なく発揮されていて、なかなか楽しめるのは嬉しい誤算だった。
…と言いつつ、本書をまだ半分も読んでいないのだが。
(10/03/23 作)
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