地の底が割れる
ただ、命があること自体の秘蹟を思うが故に、せめて自分だけは自分を慈しむべきなのだと思う。生まれた以上は、その命の輝きの火を自らの愚かしさで吹き消してはならないのだと思う。
そうでなくとも、遅かれ早かれ、その時はやってくるのだ。
宇宙において有限の存在であるというのは、一体、どういうことなのだろう。
昔、ある哲人が、この無限の空間の永遠の沈黙は私を恐怖させる、と語ったという。
宇宙は沈黙しているのだろうか。神の存在がなければ、沈黙の宇宙に生きることに人は堪えられないというのだろうか。
きっと、彼は誤解しているのだと思う。無限大の宇宙と極小の点粒子としての人間と対比して、己の存在の危うさと儚さを実感したのだろう。
が、今となっては、点粒子の存在が極限の構成体ではないと理解されているように、宇宙を意識する人間の存在は、揺れて止まない心の恐れと慄きの故に、極小の存在ではありえない。
心は宇宙をも意識するほどに果てしないのだということ、宇宙の巨大さに圧倒されるという事実そのものが、実は、心の奥深さを証左している。
神も仏も要らない。
あるのは、この際限のない孤独と背中合わせの宇宙があればいい。自分が愚かしくてちっぽけな存在なのだとしたら、そして実際にそうなのだろうけれど、その胸を締め付けられる孤独感と宇宙は理解不能だという断念と畏怖の念こそが、宇宙、そして心の無限の広がりを確信させてくれる。
森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。
誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。誰の肩にも触れることのない雨の雫。雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。
数千年の時を超えて生き延びてき木々の森。
その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。
きっと、遠い昔に忘れ去った、それとも、生れ落ちた瞬間に迷子になり、誰一人、道を導いてくれる人のいない世界に迷い続けていた自分の心に、遠い懐かしい無音の響きを直接に与えてくれるに違いないと思う。
その響きはちっぽけな心を揺るがす。
心が震える。生きるのが怖いほどに震えて止まない。大地が揺れる。世界が揺れる。地の底が割れる。不安に押し潰される。世界が洪水となって一切を押し流す。
その後には、何が残るのだろうか。それとも、残るものなど、ない?
何も残らなくても構わないのかもしれない。
きっと、森の中に音無き木霊が鳴り続けるように、自分が震えつづけて生きた、その名残が、何もないはずの世界に<何か>として揺れ響き震えつづけるに違いない。
それだけで、きっと、十分に有り難きことなのだ。
([旧稿より抜粋] 写真:用事があり、知り合いの家へ。久しぶりに猫ちゃんたちと対面。小雪の舞う寒い日なので、猫たちは電気カーペットから離れない!)
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