書きつかれ筆置くころの藤の花
寒い! 富山は天気予報通り、雪になった。積もるのかどうか。
まだ見頃の時期には早いのだが、少しでも暖かさを感じたいのと季節を先取りするつもりで、今日は「藤(の花)」についてあれこれ綴ってみる。
→ 小惑星探査機「はやぶさ」 「地球のごく近くを通過する軌道への投入に成功」だって。やったー、である。6月の帰還が待たれる。 (画像は、テレビニュース画面より。情報は、「地球帰還、ほぼ確実に=小惑星探査機「はやぶさ」-宇宙機構(時事通信)」より)
「藤(の花)」を選んだことに他意はない。
ちょっと妖しいあるいは秘密めいた雰囲気を感じさせる花である。
謎めいた花に感じられるのは、色合いが、その昔はやんごとなき人にしか許されない、高貴なものを連想させるからだろうか。
でも、「露草」とか「菖蒲」(かきつばた)とか「蓮華草」とか、紫色の花は他にも少なからずある。
そんな中、「藤の花」は格別なものなのだろうか。
紫衣を纏えるのは位人臣を極めた人だけに許される…、そんなイメージもある。
これは小生に素養がないからゆえの疑問なのかもしれないが、中臣鎌足が「藤原姓」を賜ったのが、昔からの疑問だった。
彼は、「臨終に際して大織冠とともに藤原姓を賜った」という。
名前に「藤」の文字が入っているのは、意味があってのことか。
多分、あるのだろうが、分からない。
← 曇り、雨、霙(みぞれ)、晴れ、雪と、千変万化の日。寒い! いかにも富山という空模様である。
この「大織冠」という冠位は、「史上藤原鎌足だけが授かった」ものというのも、何か謎めいている。
「大織・小織の冠は織物で作り、繍で縁どった。冠につける鈿は金銀で作った。深紫色の服を着用する規定であった」というが、その冠(織物)の色は何色だったのだろう。
但し、「藤衣」はともかく、「藤布」は、「庶民用布、ござの縁布」だったらしい。
さて、「日本においてフジといわれるものはノダフジであ」り、「本州・四国・九州の温帯から暖帯に分布する」という。
藤の「蔓」は、籐椅子などに使われることは知られている。
一方、「藤の成分には、ポリフェノールが含まれ」、体質改善に効果があるとか。
「つる」や「若芽」は食用になり、「花」は食用にも「塩漬けして「花茶」に用いる」とも。
「種子」だって「ポリフェノールが含まれ」、以前は食用に供されたというから、まさしく万能の植物なのである。
それを証しするかのような記述が『古事記』にある。
「母ふぢ葛を取りて、一宿の間に、衣・褌また〓・沓を織り縫ひ、また、弓矢を 作りて、その衣・褌などを服せ、その弓矢を取らしめて、その嬢子の家に遣はせば、その衣服また弓矢、ことごと藤の花に成りき」。
藤なる植物の霊験あらたかなことは、古代より知られていたわけである。
その生命力や姿かたちにあやかってか、秘事の際の「下がり藤」なる技(わざ)もあるとか。
「現在日本で一番多い苗字とされて」いる「佐藤」をはじめ、「藤原氏を出自としてその流れを汲む十六藤」や「藤」から始まる姓の持ち主たちの反映ぶりも、さもあらん、なのだろうか。
→ 「ノダフジ」 (画像は、「フジ属 - Wikipedia」より)
「藤浪の花は盛になりにけり ならのみやこを思ほすや君」(万葉集:大伴四綱(よつな)の歌)や「古事記」にも「藤」は登場するし、「枕草子」でも清少納言は「藤の花は、しなひ長く、色濃く咲きたる、いとめでたし」などと評している。
「枕草子」の、「春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲」という有名な一節は印象深い。
栗田勇氏著の『花を旅する』(岩波新書)で知ったのだが、『万葉集』には、「たこの浦の底さへにほふ藤波を 挿頭(かざ)して行かむ見ぬ人のため」なる歌があるが、この「多この浦」は、富山県の海辺のことだとか。
調べたら、「富山県氷見市にあった布勢の湖(うみ)の湖岸」だという。
ここは、「藤の名所として知られた」というのだ(後日、機会を設けて調べてみたい)。
しかし、やはり何と言っても紫というと「源氏物語」だろう。
主人公の光源氏のモデルは藤原氏の某だということもあるし、源氏物語で「紫」に関係する巻を列挙するだけでも以下の通りである:
桐壺の巻: 飛香舎の庭は藤壺
花宴の巻:光源氏は藤の宴で朧月夜の君に話しかける
明石の巻:明石の君を「藤の花とやいふべからん」
藤裏葉の巻:「藤の花」は「雲居雁」を指す。
第一、「源氏物語」の作者の名前が「紫式部」ではないか。
しかしながら、「紫式部」は、「女房名は「藤式部」」で(ここでも「藤」が出てくるのはともかくとして)、「紫式部」という呼称の由来については、確かなことは分かっていないらしい。
「一般的には「紫」の称は『源氏物語』または特にその作中人物「紫の上」に由来すると考えられている」のが実状らしいのである。
この「紫の上(むらさきのうえ)は、紫式部の古典『源氏物語』のヒロイン」なのは言うまでもないだろう。
『源氏物語』は、紫色の物語世界なのだ、と決め付けたくなるが、そこは自制しておく。
← 雪の降る庭の隅に咲く「ラッパ水仙」。寒かろうに、健気だね。
「藤」については、俳諧も含め、触れるべき事柄はまだまだあるが、今は「藤原」姓に戻る。
「藤」という日本にも固有の植物の生命力や霊験あらたかなことが、「藤原」姓の背景にあるのだろうか。
あるいは、古典を学ぶものには常識となっている答えがあるのかもしれない。
半端だが、今日は、これまでにしておく。
(10/03/29 作)
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